「競売物件の落札者がいない場合、管理組合が落札して転売できるか」(2014年1月号掲載)
Q
私達のマンションは全150戸の管理組合法人です。長期間管理費を滞納した人がいるため区分所有法59条の裁判をやって、それに基づく競売の申立を行いました。もし、物件を落札してくれる人がいなければ競売は取り消されてしまうと聞きました。この場合管理組合で落札することはできるのでしょうか。また、落札した物件を第三者に売却することは問題ありませんか。
A
区分所有法3条は区分所有者全員で「建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成」すると規定されており、管理組合法人もこの目的のために区分所有法47条1項で法人格を取得した団体です。ある目的を実現するために設立された団体ですから、その目的から明らかに外れた行為をすることはできないのは当然です。他方で、目的に直接関連する行為しかできないと考えることも実際に管理組合が行う行為が多様化している現実に合わないという不都合があります。
ところで、本件と類似の事例について、私と交代でアメニティの原稿を担当している石川貴康弁護士が裁判で争った事件があります。
この裁判は管理組合法人が滞納者に対して59条の裁判を提起して、さらに競売を申立て、専有部分を自ら落札(購入)して転売する旨の決議が管理組合の目的外行為にあたることを理由に当該総会決議の無効確認を求めた裁判です。
新潟地方裁判所長岡支部(平成25年6月14日)の判決は「管理組合法人の目的の範囲内の行為は建物並びにその敷地及び附属施設の管理という目的を遂行する上で直接又は間接に必要な行為を行うことも含まれる」としたうえで「管理費等の適切な徴収は、建物の管理保守や維持のための財政的基盤を維持する上で必要不可欠であり、被告(=管理組合法人)の目的を実現するために必要な行為として、被告の目的の範囲内の行為である」「買受希望者が現れない場合に限り、管理組合法人で自己競落するという措置は、区分所有法59条1項規定の競売の目的を実質的に達成し、管理費の適正な徴収を可能にするために必要かつやむを得ないものと認められる」「買い受け希望者が現れない場合に限り、被告が専有部分の区分所有権を競売により取得し、これを第三者に転売するという行為は、被告の目的を遂行する上で直接又は間接に必要な行為であると認めるのが相当である」と判示しました(この結論は東京高裁でも維持されています)。滞納管理費の回収を目的としていることや買い受け希望者が現れない場合という限定が付されていますが、管理組合が自ら専有部分を落札して、転売することは管理組合法人の目的の範囲内の行為として認められることになります。
なお、石川弁護士から聞いたところでは、本件裁判では管理組合が専有部分を第三者に転売することは宅地建物取引業法に違反することも主張していたようですが、この点は証拠から明らかでないとして厳密には判断されなかったようです。皆さんもご承知のことと思いますが、免許がなければ「宅地建物取引業」を行うことはできません。無許可でこれを行うと刑事罰が課されます。
「業として行う」と言えるかは取引の対象者や取引の目的、取引の態様、取得経緯、反復継続性等を総合考慮して判断されます。
前述のように目的の範囲内として許されたとしても、転売先を限定しないで、継続的に自己競落と転売を行えば、「業として行う」に該当する可能性が高くなるのでその点は注意が必要だと思います。
回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・内藤 太郎
(2014年1月号掲載)