「理事会の業務の責任」(2014年9月号掲載)

私達のマンションの1階の専有部分はAさんが所有して店舗を営んでいます。総会で大規模修繕をすることを決議しましたが、Aさんが規約に違反して店舗前の共用部分に看板や自転車等を置いているために理事会でAさんの店舗前の共用部分の修繕工事を保留することを決議しました。Aさんから総会で決議されたことを行わないのは違法であるから、責任を追及すると言われていますが、私達(理事)が責任を問われることがあるのでしょうか?

一般論としては総会で決議されたことについて理事会はそれに従った業務を行う義務がありますが、それをしない場合常に責任を問われるのでしょうか。この点について本件と類似の事案が裁判で争われたことがあります(東京地方裁判所平成24年3月28日判決)。裁判所は次のとおり判示しました。

「理事会が、組合業務を執行するにあたり、規約や区分所有法に違反し、区分所有者共同の利益を害する事態が存在するにもかかわらず、総会で議決された事項すべてを必ず執行しなければならないと解すると、区分所有者の共同の利益を守る目的で、本件マンションの共用部分の管理等を行う理事会が、かえって規約や区分所有法に違反する行為や、区分所有者共同の利益を害する行為に及ぶことになってしまう。

(中略)本件修繕工事については、総会が実施することを議決したが、理事会は、すべてにおいてその執行(実施)が義務づけられたというものではなく、執行(実施)する権限が授与されたものというべきであり、理事会が本件修繕工事を実施するにあたっては、理事会に一定の裁量が認められているというべきである。理事会が総会の議決に反し本件工事を保留したことにつき、執行(作為)義務や損害賠償義務が認められるには、その裁量を逸脱したと認められることが必要であると解すべきである」としつつ、当該裁判の事案では

(1)原告店舗前の共用部分に室外機や看板が設置されて自転車やバイクが駐輪されている状況では、本件工事を実施できないこと

(2)以前から原告店舗前の共用部分には室外機等が設置され、自転車やバイクが駐輪していたこと

(3)これらのことに関して組合員から苦情が寄せられていたこと等の事実が認められるので、理事会で本件工事を保留することを決定し、被告管理組合が本件工事を実施しなかったことは、やむを得ないものであったと判断して理事の責任を否定しました。

但し、この東京地裁の裁判例では規約違反行為について改善することを求めていたにも関わらず、組合員がそれに応じようとしなかったという事情があったようです。規約違反行為があるから常に工事を行わないことが正当化されるわけではありません。

本件でも管理組合としてAさんに対して規約違反行為の是正を求めていること、それにも関わらずAさんが応じないこと、当該規約違反行為が是正されないと修繕工事にも支障が生じることなどの事情が認められれば、理事会としてAさんの店舗前の共用部分の修繕工事を保留したことは許されて、理事としての責任を問われることはないと考えられます。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川 貴康
(2014年9月号掲載)