「総会での議長の権限は?ヤジ発言者を退場させられるか」(2015年9月号掲載)
Q
私達のマンションでは、あることがきっかけで今の理事会を支持する組合員とそれに反対する一部の組合員との間で激しい感情的な対立が生じるようになりました。そのため、総会もヤジが飛び交う有様で、とても冷静な議論ができません。私は今度の総会で議長を務める予定ですが、議長はヤジを飛ばす人を会場から追い出すことはできるのでしょうか。
A
議長といえば株式会社の株主総会を思い浮かべる人も多いと思いますが、会社法の315条1項には「株主総会の議長は、当該株主総会の秩序を維持し、議事を整理する」という規定があり、同条2項で「株主総会の議長は、その命令に従わない者その他当該株主総会の秩序を乱す者を退場させることができる」と規定されています。
この会社法と同様の規定が、区分所有法にはありませんが、議長は総会を適切に運営する義務を負っていますが、この義務を果たすためには総会を適切に進行するための権限が議長には与えられなければなりませんし、一般的にも認められています。
これは株式会社の総会であろうと、管理組合の総会であろうと同様であり、法律に規定が無くても議長という立場から当然に有する権限とされています。
この権限は、議事を整理する権限(議事整理権)と議場の秩序を維持する権限(議場秩序維持権)とに分けられます。
議長はこの権限に基づいて、総会の秩序を乱したり、総会の議事進行を正当な理由無く妨害する者を総会の場から退場させることができます。
もっとも、総会で議決権を行使する権利は組合員にとっては重要な権利でありますから、1回のヤジ等不規則発言で退場させることは不適切です。
まずは、ヤジ等の不規則発言をしないように注意をする。再度ヤジ等を繰り返すのであれば退場させることの警告を1~2回行い、それでも止めない場合に初めて退場命令を出すべきであると思います。
他方で、総会の場で暴力行為に及んだ場合は悪質性が高いので直ちに退場命令を出すべきでしょう。
それでは、退場命令を出したにもかかわらず、退場せずに総会の会場に居座る場合はどうしたら良いでしょうか。
議長の退場命令が、適正な要件で行われた適法なものであれば、退場命令を受けた者が総会の場に居続ける正当な権利はありません。
にもかかわらずその場に居続けることは刑法130条の不退去罪に該当する可能性があります。
議長としては不退去罪として告訴する旨や警察に通報旨を伝えて、総会の会場からの退場を求めることになるでしょう。
なお、退場命令を受けたにもかかわらず、退去せずにさらにヤジや暴言などの不規則発言を続ける場合は刑法234条の威力業務妨害罪も成立します。
このような行為が予測される場合は予めビデオで録画することを検討して下さい。退場命令は強力な権利ですから、その行使には一定の慎重さが求められますし、総会が荒れることが予想される場合はマンション問題に詳しい弁護士をオブザーバーとして出席させることを検討して下さい。
回答者:法律相談会 専門相談員 弁護士・石川 貴康
(2015年9月号掲載)