居室へ施工業者の立ち入りを拒否するAさん。給排水管工事ができません。どうすれば…(2015年11月号掲載)

私が理事長(管理者)を務める6階建てのマンションでは、給排水管の老朽化がひどいため、給排水管の更新工事をすることになりました。この工事の実施について、総会決議で承認がなされました。しかし、3階に住んでいる区分所有者のAさんがこの工事に反対しており、その居室への施工業者の立ち入りを拒否しています。給排水管の構造上、すべての居室に立ち入り作業する必要があるため、このままでは工事ができません。どうすればよいでしょうか。

ご質問の更新工事が、マンションの管理維持にいかに必要な工事であって、他面、Aさんが立ち入りを拒否している理由がいかに理不尽な内容であっても、なんら法的手続を踏まず、Aさんの意思を無視して居室に立ち入ることはできません。もしそのようなことをすれば、不法侵入となり、民事上、刑事上の責任を負うおそれがありますので、しないでください。紛争の相手方の意思に反して権利を実現するためには、法的手続によらなければなりません。

さて、区分所有者は、その専有部分である居室を自由に使うことができます。しかし、建物の管理又は使用に関して、他の区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならないという制約があります(区分所有法6条1項)。また、区分所有者は、建物の保存・改良のために必要な範囲内で、その専有部分である居室を他の区分所有者に一時的に使用させなければなりません(同法6条2項)。

ご質問の更新工事は、総会決議で承認されているのですから、Aさんはこの工事を妨害してはならず、その居室への施工業者の立ち入りを認めなければなりません。

話し合いなどが功を奏さない場合には、理事長は、Aさんを被告として訴訟を起こすべきです。管理者(理事長)は、規約又は総会決議により、その職務に関して、区分所有者のために訴訟を起こせます(同法26条4項)。したがって、管理規約にその旨の規定があれば、理事会の承認を受けて訴訟を起こし、なければ総会決議を得て訴訟を起こします。

その訴訟ですが、Aさんに対し、この工事を妨害してはならないという妨害排除請求をするほか、この工事をするためにAさんの専有部分である居室に立ち入ることを承諾せよ、と請求します。

後者の請求に対し裁判所が「承諾せよ」との判決を出すと、その判決が確定した時点で、Aさんが立ち入りを承諾したのと同じ法的効果を得ることができます(これを「意思表示の擬制(ぎせい)」といいます)。

また、早急に工事を実施しないと著しい損害が発生してしまう場合には、以上のような訴訟に先立ち、民事保全の申立てを裁判所にすることもできます。

民事保全とは、時間のかかる訴訟の結果を待っていては著しい損害が発生してしまう場合等に、暫定的な措置をするものです。この申立が認められれば、暫定的ですが勝訴判決を得たのと実質的に同様の結論が得られます。

もっとも、この申立が認められるためには、後に予定された訴訟で敗訴したときに備え、裁判所が求める額の担保金を積まなければなりません。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・内藤 太郎
(2015年11月号掲載)