店舗複合型マンション。飲食店の深夜営業時間を制限できるか(2016年1月号掲載)
Q
私どものマンションは1階と2階が店舗で、3階から10階までが居住用の複合型マンションです。1階の所有者であるAさんは中華料理店を営んでいたBさんから専有部分を購入して、ラーメン店を開業しようとしています。規約で店舗部分は飲食店として使用できますが、Aさんは深夜2時まで営業したいと申し入れをしています。営業時間に関する規定は規約にはありません。深夜の営業は居住者から安眠を害するとの意見が強いので、総会で店舗部分の営業は午後10時までとすると決議したところ、Aさんから営業時間の制限は規約以外ではできないから総会決議は無効であると主張されています。営業時間の制限は総会決議ではできないのでしょうか。
A
区分所有法30条1項は「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」と規定しています。「できる」という規定であり、必ず規約で定めなければならないとは規定していません。
また、区分所有法3条は「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる」と規定しているので専有部分の建物の管理について「集会の決議」で行うことも許容されていると考えられます。したがって、専有部分である建物の管理に関する事項(営業時間を制限することも含まれます)に関しては、規約で定めることも、集会(総会)の決議によって定めることも可能です。
この点で規約で定めない限り、制限できないというAさんの主張は正しくないことになります。
他方で、区分所有法31条1項後段は「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者に特別の影響を及ぼすときには、その承諾を得なければならない」と規定してます。この規定の趣旨は集会(総会)の決議で営業時間を制限する場合にも妥当すると考えられます。即ち、本件でも営業時間の制限がAさんに「特別の影響を及ぼす」と認められるときには、Aさんの承諾が必要となります。
特別の影響については「規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量して、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合にいう」とするのが裁判所の示している基準ですが、集会(総会)の決議による制限の場合もこれと同様に判断されると考えられます。
Aさんに受忍限度を超える不利益があるかは様々な要素を考慮して判断するので一概には結論づけられません。
例えば、当初から店舗の深夜営業は認めてこなかったという事情があれば、Aさんも深夜営業はできないことは購入時点で認識できたので受忍限度は超えていないと判断する方向の要素になるでしょうし、その逆にこれまでは深夜営業を認めてきたのであれば、現時点で深夜営業を認めないとするのは受忍限度を超えていると判断する方向の要素になるでしょう。なお、これまでの深夜営業の実態の有無はあくまでも一つの判断要素で、それで全てが決まるわけではありません。
回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川 貴康
(2016年1月号掲載)