建替え推進決議の要件は?(2012年9月号掲載)
Q
私達のマンションでは建替え推進決議を目的とした臨時総会を予定しています。この場合の決議要件について教えてください。
A
まず、建替え決議までの合意形成のプロセスの概要は次のとおりです。
(1)準備段階として、有志による勉強会の発足、建替に関する基本的な検討を経て管理組合として建替えを検討することを合意します。
(2)検討段階として、管理組合における検討組織を設置した上で、専門家を入れた上で、建替えか修繕か判断をしたうえで、建替えが適切だと判断したのであれば建替え構想の策定を行い、建替え推進決議を行います。
(3)計画段階として、建替え計画を策定するための組織を設置して、専門家や事業協力者を選定して、建替え計画の検討を行い、建替え計画を作成します。そして、建替え決議を行います。
以上の流れの中で(3)における建替え決議は区分所有法62条に基づくものです。この決議は区分所有者及び議決権の各5分の4以上の賛成が必要となる特別決議となります。
これに対して(2)の段階の建替え推進決議の議決要件については法律に規定がありません。
この点、区分所有法30条1項で「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる」と規定されていることから、建替え推進決議については規約で定めておくことが可能ですし、その場合の決議要件についても普通決議(過半数)とすることも特別決議(3分の2以上とか4分の3以上)とすることも可能であると考えられます。
では、規約に建替え推進決議について特に規定がない場合は、どうなるでしょうか。この場合でも総会で建替え推進決議を行うことは可能です。
その場合の決議要件は、普通決議(過半数)で足りることになります。
もっとも、区分所有法62条の建替え決議は前述したように区分所有者及び議決権の各5分の4以上という大変重い要件が課せられています。この要件は規約で緩和すること(例えば4分の3以上や3分の2以上とすること)は認められません。
このように考えると建替え推進決議の場面で過半数を上回る程度の賛成しか得られないとすれば実際に建替え決議を行うときに5分の4以上の賛成を得ることは極めて困難なことだと思われます。
とすれば、管理組合としては過半数で足りるとしても、建替え推進決議の段階で大多数の賛成者を得られるように組合員の意見調整や情報提供を積極的に行うことが大切です。
建替え推進決議の要件を規約で4分の3以上の特別決議事項とすることも考えられますが、推進決議は本格的な建替え計画の検討に向けた入り口の場面とも言えますので、入り口の段階でハードルを上げるのか適切であるか否かは価値判断が分かれるところだと思います。
回答者:法律相談会 専門相談員 弁護士・石川 貴康
(2012年9月号掲載)