Q&A 個人で起こした理事長解任訴訟の費用請求(2019年11月号掲載)
個人で起こした理事長解任訴訟の費用を請求できるか?
Q
管理組合の理事長(区分所有法上の管理者)が不正を働いていたにもかかわらず、総会での解任決議が否決されました。そこで、一組合員である私が、区分所有法25条2項に基づいて解任請求訴訟を起こし、裁判で解任が認められ、その判決は確定しました。私は、この裁判のために弁護士を使っており、その費用がかかりました。私は、管理組合や組合員のために、裁判を起こしたわけですので、弁護士費用を管理組合や他の組合員にも負担してもらいたいと考えています。請求は可能でしょうか?
A
義務はないけれども、他人のために活動した場合は、その人に費用を請求できる場合があります。例えば、長期不在中の家の窓ガラスが割れてしまった場合に、近所の人が業者に依頼して応急措置をとったときなどは、その費用を家の持ち主に請求できます。この法律関係は、民法上、事務管理と呼ばれています(民法697条以下)。
では、この事務管理の理屈を使って、今回の弁護士費用を、管理組合や他の組合員にも負担させることができるでしょうか。 まず、管理組合について考えてみます。判例は、「区分所有法25条2項の管理者解任請求は、各区分所有者固有の権利であって、管理組合の権利ではないから、…管理組合を本人とする事務管理が成立する余地はない」としています(東京高裁平成29年4月19日判決(判例タイムズ1451号93頁))。
この点、この判決の原審(東京地方裁判所平成28年10月13日(判例タイムズ1439号192頁)は、事務管理が成立する余地を認めており、判断が分かれるところと思います。事務管理の成立を認めると、法が認めた管理者解任請求をしやすくなりますが、理論的な問題も無視できないところで、今回は判例の紹介にとどめます。
次に、他の組合員に対してはどうでしょうか。事務管理は、本人の意思に反することが明らかな場合は成立しません。この点、前記東京高裁判決は、「各区分所有者は、いずれも区分所有法25条2項に基づく管理者解任請求訴訟の原告適格を有しているから、…解任訴訟の提起が(他の組合員)の意思に反しないものであるときには、(他の組合員)を本人とする…事務管理が成立する可能性がある。」とした上で、「(解任訴訟を提起した組合員は、)…解任訴訟の提起の当時、組合員の中には、訴訟提起に賛成の者もいれば反対の者もいること、反対の者の数が決して少なくないことが確実であることを認識していたものというべきである。
そして、(訴えられた他の組合員)は…解任訴訟の提起に反対の者に属するから、…訴訟提起は(訴えられた他の組合員)の意思に反することが明らかであり、…解任訴訟の提起に関する事務管理に基づく有益費償還請求権を有しない」「本人の意思に反することが明らかな者(以下「意思相反者」という。)の数が相当数あることが確実であるときには、事務の管理の開始時(解任請求提起時)において管理者が意思相反者を個別に特定して認識していなくても、意思相反者との関係においては事務管理が成立しないものというべきである。」と判示しました。要は、解任訴訟の提起に反対の意思を有していた組合員との関係では、事務管理は成立しないと判断しました。
上記東京高裁判決に従うと、管理組合と解任訴訟の提起に反対の組合員に対しては、費用負担を求めることはできないことになり、解任訴訟の提起に賛成の組合員に対してのみ費用負担を求めることができます。
回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・内藤 太郎
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2019年11月号掲載)