法律Q&A 理事の資格制限を理事会規則で定めることは有効か?(2022年11月号掲載)

 管理規約に、「役員及び理事会について必要な事項は、理事会の決議に基づいて定める」旨の規定があります。

 この規定に基づいて、「理事が管理組合に対し、原告又は被告となったときには、理事の資格を失う」との理事会規則を理事会決議で定めようと思うのですが、有効でしょうか。なお、管理規約には、「管理規約及び集会の決議に著しく違反する行為があると認められる区分所有者について、あらかじめ理事会の決議があった場合は、当該区分所有者を管理組合の役員に選任することができない」との規定があります。

 ご質問の管理規約には、「役員及び理事会について必要な事項は、理事会の決議に基づいて定める」旨の規定がありますから、理事会は、この限度でのみ理事会規則を定めることができます。では、ご質問にあるような、理事の資格に関する事項は、「役員及び理事会について必要な事項」に含まれるのでしょうか。

 同様の事案で、裁判所の判断が分かれたものがあります。

 大阪地裁平成31年4月9日判決(判例時報2482号31頁)では、管理規約は理事の任期途中でその資格を喪失する事態を想定しているにもかかわらず、あらかじめ理事となることができない場合を定めているのみであるのは、任期中の理事資格喪失事由を、「理事会について必要な事項」として、理事会の決議によって定められる規則に委任しているためであるとし、「この規約及び集会の決議に著しく違反する行為があると認められる区分所有者」と同程度に、理事としての適格性を欠き又は誠実な職務執行が期待できない類型的な事由を定めることが理事会に許容されていると判断しました。この判断を踏まえ、決議された理事会規則を有効としました。

 これに対し、控訴審の大阪高裁令和元年10月3日判決(判例時報2482号25頁)では、「理事の資格制限事由を理事会で決めるには、本件管理規約による明文の委任が必要であると解されるところ、本件管理規約・・・は、「役員及び理事会について必要な事項」は理事会の決議に基づいて定めると定めているが、これは、本件管理規約の定める趣旨の範囲内で内容又は手続を具体化することを念頭に置いたものであって、本件管理規約に定められていない理事の資格喪失事由を新たに定めることを理事会に委任したものと解することはできず、他に、本件管理規約には、本件管理規約に定められていない理事の資格喪失事由を新たに定めることを理事会に委任した定めは存在しない。」と判断し、管理規約による委任の範囲を逸脱したものとして、理事会規則を無効としました。

 この事案では、管理規約に、理事の資格を制限する事由が明記されていたわけですが、地裁はこれを単なる例示と解釈したのに対し、高裁は、例外的に制限事由を定めたものと厳格に解釈しました。この解釈の違いの根底には、理事会が、区分所有建物の管理にとって重要な事項を決議する機関であり、その構成員たる理事の資格を定めるに当たっては、組合員の総意を反映させなければならない、との考えがあるものと思います。高裁の判断に説得力があります。

 よって、ご質問の理事会規則は無効であると考えます。

法律相談会専門相談員 弁護士 内藤太郎

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2022年11月号掲載)