法律Q&A 理事辞退者に協力金を課すことはできるか(2023年7月号掲載)
Q
私の住むマンションでは、輪番制で理事を決めているのですが、辞退者が多く、理事の確保に苦慮しています。辞退者が多いため、何度も理事を務めなければならない人の負担が大きく、不満の声が挙がっています。そこで、辞退者には、理事会協力金を管理組合に払ってもらう制度を規約改正で作ろうと思うのですが、可能でしょうか。
A
一部の組合員に協力金の負担を課すことについては、居室に居住しない、いわゆる不在組合員に対する協力金の賦課を認めた最高裁判決があります(最高裁平成22年1月26日判決(判例タイムズ1317号137頁))。
この判決は、「マンションの管理組合を運営するに当たって必要となる業務及びその費用は、本来、その構成員である組合員全員が平等にこれを負担すべきもの」という前提の下、不在組合員が役員になる義務を免れる一方で、居住組合員のみが役員に就任し、不在組合員は,その活動による利益のみを享受している状況が不公平であり、これを是正するためであることを、協力金を認める理由の一つとして挙げています。この理由は、まさにご質問の理事会協力金にも当てはまるものと思われます。
下級審レベルでは、ご質問の理事会協力金を認めた判例もあります。
横浜地方裁判所平成30年9月28日判決(判例秘書搭載)は、①大規模な団地であり、理事の職責が重いこと、②組合員の高齢化に伴い理事に就任する者が不足することが予測された上、大規模修繕その他今後の管理業務の複雑化・高度化に対応する必要があったこと、③組合員の意見を聴取するなど慎重な手続を経た上、団地総会において満場一致で制定されたこと、④理事の就任を辞退した者が支払を求められる理事会協力金の額は月額5000円であり、理事に就任した者の負担内容と比較すれば,その負担が過大であるといえないこと、⑤理事会協力金を支払った場合であっても、その後、5年以内に理事に就任し、任期満了まで務めることによって返金されること、⑥理事会協力金の支払を拒んでいるのは一人だけであること、などを理由として理事会協力金を認めました。
これらの判例を踏まえると、事案にもよりますが、ご質問の理事会協力金が認められる可能性もあると思います。しかし、先ほどの最高裁判決では、「居住組合員の中にも、(理事就任を含む保守管理等の)活動に消極的な者や高齢のためにこれに参加することが事実上困難な者もいることはうかがえるのであって、これらの者に対しても何らかの金銭的な負担を求めることについては検討の余地があり得る」との判示をしており、不在組合員に対する協力金の賦課が認められるからといって、直ちに理事就任を拒否した組合員に理事会協力金を賦課することが認められると判断しているわけではありません。不在組合員の場合は、理事不就任の問題の他にも、総会議案書等の郵送コストや、理事就任以外の活動(清掃ボランティア等)の問題もあります。また、理事に対し、報酬を出すことにより、なり手を確保し不公平感を緩和するという手段もあり、現にそのような制度を採用しているマンションもあります。一部の組合員に協力金を課すことは、いわば罰を課すことになりますから、そのようなやり方には慎重になるべきであるとの考え方もあります。
法律相談会専門相談員 弁護士 内藤 太郎
集合住宅管理新聞「アメニティ」2023年7月号掲載