法律Q&A 区分所有者から会計帳簿謄写(コピー)請求(2023年11月号掲載)

 

 区分所有者から、会計帳簿の謄写(コピー)を求められています。規約上、会計帳簿の閲覧を認める規定はあります。運用上、写真撮影については許可しているのですが、謄写(コピー)の求めに応じなければなりませんか。

 以前ご紹介したことのある判例ですが(令和3年11月号)、会計帳簿等につき、規約に規定していない閲覧請求及びデジタルカメラでの写真撮影を認めた大阪高裁判決平成28年12月9日(判例タイムズ1439号103頁 )があります。管理組合と組合員との間には、前者を敷地及び共用部分の管理に関する受任者とし、後者をその委任者とする準委任契約が締結された場合と類似の法律関係、すなわち、民法の委任に関する規定(民法645条)を類推適用すべき実質があるとしました。民法645条は、受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告しなければならない、としています。

 そこでこの判決は、「管理組合は、個々の組合員からの求めがあれば、その者に対する当該マンション管理業務の遂行状況に関する報告義務の履行として、業務時間内において、その保管する総会議事録、理事会議事録、会計帳簿及び裏付資料並びに什器備品台帳を、その保管場所又は適切な場所において、閲覧に供する義務を負う」とし、民法645条の報告義務の履行として、「少なくとも、閲覧対象文書を閲覧するに当たり、閲覧を求めた組合員が閲覧対象文書の写真撮影を行うことに特段の支障があるとは考えられず、管理組合は、上記報告義務の履行として、写真撮影を許容する義務を負う」と判断しました。

 では、一歩進んで、謄写(コピー)を許容する義務まで負うでしょうか。

 名古屋地方裁判所判決令和元年10月25日(判例秘書登載)は、「文書の保管場所からの持ち出しが相当でない場合もあり得るところ、文書の保管場所における謄写(コピー)を認めるとすれば使用に支障のない状態の機器を維持管理する必要があるが、かかる維持管理の可否等については当該団体の個別事情によるところもある。そうすると、会計帳簿等の閲覧の方法や謄写の可否及び方法については、基本的には当該団体の自治に委ねられるものと解するのが相当である。この点、本件管理規約・・・は、会計帳簿等につき「組合員の請求があったときは、これを閲覧させなければならない」と規定して謄写を認めていないこと・・・、閲覧の際の写真撮影を認めることによって実質的に報告義務は履行されて管理組合の運営の透明化の趣旨に反するところはないことを考慮すれば、仮に、原告が主張する民法645条に基づく閲覧請求権が認められるとしても、同請求権の内容として、閲覧及び閲覧の際の写真撮影の範囲を超えて、本件各文書の謄写(コピー)・・・を含むものとは解されない。」として、謄写(コピー)を許容する義務を否定しました。

 こうした判例の流れからすると、写真撮影まではこれを許容する義務はあるが、謄写(コピー)まで許容する義務はない、といえそうです。

法律相談会専門相談員 弁護士 内藤太郎

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2023年11月号掲載)