法律Q&A 理事立候補者を理事会承認必要とすることは可能か(2024年3月号掲載)

 

 管理規約を改正して、「理事会の役員についての立候補者が役員候補者として選出されるためには、理事会承認を必要とする。」旨の規定を入れることは可能ですか。

 

 規約は、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければなりません(区分所有法30条3項)。したがって、これを害するような規約の定めは無効となります。

 では、ご質問の規定はどうでしょうか。東京地方裁判所平成30年7月31日判決(判例時報2468・2469合併号10頁)は、役員候補者の選出につき、理事会の広範な裁量を認める規定を有効とし、理事会の承認又は不承認が違法とされるのは、理事会がその広範な裁量の範囲を逸脱し又は濫用した場合に限られると判断しました。しかし、このように役員候補者の選出を理事会の広範な裁量に委ねると、その当時の理事会の意向が強く反映され、組合員の多様な意見が理事会運営に反映されない危険性があります。

 この判決の控訴審判決である東京高等裁判所平成31年4月17日判決(判例時報2468・2469合併号5頁)は、「(規定が、)承認をするかどうかについて理事会に広範な裁量を与えるものであるとすると、本件管理組合の規約において、一方では組合員である区分所有者に役員への立候補を認めながら、他方で特定の立候補者について理事会のみの判断によって、立候補が認められず、集会の決議によって役員としての適格性が判断される機会も与えられないという事態が起こり得るから、役員への立候補に関して区分所有者間の利害の衡平を害するものであって(同時に、選任者である区分所有者の議決権の行使を妨げるという意味でも、区分所有者間の利害の衡平を害することになる。)、区分所有法30条3項に反するものといわざるを得ない。そうすると、(規定は、)明示されてはいないものの、成年被後見人等やこれに準ずる者のように客観的にみて明らかに本件管理組合の理事としての適格性に欠ける者…については、理事会が立候補を承認しないことができるという趣旨であると解され、その限度で(規定は)有効であるというべきである。」とし、「理事会が前記の裁量の範囲を逸脱して、立候補を認めない旨の決定をした場合には、それによって、少なくとも、当該立候補者が有する人格的利益(役員としての適格性の是非を、集会において区分所有者によって、判断されて、信任・選任されるという利益)を侵害するものとして、違法性を有するものというべきである。」と判断しました。

 この控訴審判決を踏まえると、理事会の裁量は極めて限定的ですから、実質的にこの規定はあまり意味がないと思えます。

 なお、この控訴審判決は、役員への立候補を認めなかった理事会の決定が裁量権の逸脱したものとして違法であると判断しましたが、 その決定に賛成した理事らに対する損害賠償請求は、管理規約において承認についての基準が明示されず、理事会の裁量を制限する定めもなく、前記条項の趣旨が裁判等によって明らかにされていたものではないなどの理由で、裁量の範囲を逸脱したことについて過失がないと判断し、認めませんでした。

法律相談会専門相談員 弁護士 内藤 太郎

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2024年3月号掲載)