法律Q&A 契約期間中のエレベーター保守契約解約 契約期間の残り分支払う必要があるか(2024年5月号掲載)
Q
私達のマンションのエレベーターの保守点検をA社に依頼してきました。契約期間は5年間で、期間満了の90日前までに書面で解約申し入れをしない限り、自動更新される規定が置かれています。あと3年契約が残っていますが、エレベーターの故障が頻発して、住民が閉じ込められる事態も度々発生し、それに対するA社の対応も緩慢かつ不誠実で組合員から多数の苦情もあることから、A社に対して90日後に契約を解除する旨の通知を送り、90日が経過しました。その後、A社から契約期間の残り3年分の保守点検費用を払えという請求が来ました。払う必要があるのでしょうか。
A
本件と同様の問題が争われたのが、東京地方裁判所平成15年5月21日判決です(原告がエレベーターの保守管理をする会社で、被告が管理組合です)。
民法651条1項は委任契約は各当事者がいつでも解除できることを規定していますが、当時の民法651条2項には「当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除したときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りではない」と規定されていました。
本件で管理組合が契約期間の途中で解除すると、A社は残りの契約期間である3年分の保守点検費用の支払いを受けられなくなりますが、これが「不利な時期に解除」した場合に該当するのではないかが争われました。
この点について前記東京地方裁判所は次のように判示しました(この裁判では原告がエレベーターの保守点検をする会社で、被告が管理組合です。)。
「民法651条2項の『不利なる時期」とは、その委任の内容である事務処理自体に関して受任者が不利益を被るべき時期をいい、事務処理とは別の報酬の喪失の場合は含まれないものと解される。そして、本件において、原告が主張する本件契約に伴って発生した不利益は、事務処理とは別の報酬の喪失に他ならず、報酬は原告が月々のエレベーターの保守管理サービスを行うことによって発生するものであること、本件解約によって原告において従業員の配置を見直したり従業員を解雇したなどといった事情を認めるに足りる証拠はなく、被告が90日間の猶予をもって本件解約通知を行っていることからすると、本件解約は『不利なる時期』においてなされた場合に当たらない。」
以上のように判示して、エレベーターの保守点検を行う会社の請求を棄却しました。
なお、民法は平成29年に一部改正が行われていて、651条1項は変わりません。651条2項は少し改正していて、2項1号で「相手方に不利な時期に委任を解除したとき」、2項2号で「委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき」は相手方の損害を賠償しなければならないと規定しています。
これより、期間の途中で解除されたことによる報酬分の損害賠償請求はできないことがより明確になりました。
本件でも、A社の不誠実な対応による解除であることから、残りの保守点検費用分を支払う必要はありません。
法律相談会専門相談員 弁護士 石川 貴康
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2024年5月号掲載)