法律Q&A「共用部分の損害賠償請求権 区分所有権の転売があったときの請求権は誰にあるか」(2024年7月号掲載)

 

 私は、数年前に新築の分譲マンションを購入しました。今、共用部分である外壁のタイルのはく落等が施工ミスを原因として起こっています。そこで、管理組合は、分譲会社に対し裁判を起こし、補修費を請求しようとしています。何か問題はありますか。

 

 欠陥のあるマンションを売った分譲会社に、不法行為責任や債務不履行責任などが生じます。分譲会社は、少なくとも補修費相当額を支払う責任があります。

 では、分譲会社が、誰に対してその金額を支払う義務を負うのか、つまり共用部分に関する損害賠償請求権を誰が持っていて、誰が行使できるのかについては、諸説あります。

 現在、請求権の帰属については、各区分所有者に分割的に帰属すると考えられています(最高裁平成12年10月10日判決(判例秘書登載))。そして、この分割的な帰属を前提とすると、その請求権の行使も、区分所有者個々によってなされるという帰結になります(一部反対説もあります。)。

 しかしこのような考え方に立つと、区分所有者全員で分譲会社を訴えなければならなくなり、大変です。そこで、この問題点を解消するため、区分所有法26条4項は、管理組合の理事長(管理者)は、規約又は集会の決議により、その職務に関して、区分所有者のために、原告又は被告になることができると規定しました。理事長は、この規定に基づいて、区分所有者全員を代理して、分譲会社に損害賠償請求をすることができます。そして、規約や総会の決議で、区分所有者個人で請求権の行使ができないことや、請求権行使によって受領したお金は、管理組合で保管して外壁の修繕に使うこと等を定めることもできると考えられますので、一見問題はないように見えます。

 ところが、重大な問題が生じたのが、東京地裁平成28年7月29日判決(判例秘書搭載)の事例です。ご質問と同様の事案なのですが、分譲後、最初の区分所有者の数名が、その裁判の口頭弁論終結(証拠調べを終え、判決を待つ状態のことです。)までに、その区分所有権を転売していたのです。この判決は、最初の区分所有者が転売したからといって、分譲業者に対する損害賠償請求権が当然に新所有者に移転するわけではなく、その請求権は最初の区分所有者にとどまることを前提に、「本件各請求権は本件マンションの区分所有者全員に帰属してはおらず、管理者は、本件マンションの区分所有者全員が本件各請求権を有することを前提とする区分所有法26条4項の授権決議を得ていない。したがって,本件管理組合の管理者たる原告が区分所有者全員を代理することはできないから、原告は、本件各請求権に係る本件訴えの原告適格を欠くといわざるを得ない。」として、訴えを却下しました。

 この判決を前提とすると、区分所有権の転売があった場合、最初の区分所有者から新区分所有者へ請求権の譲渡が全てなされなければ、区分所有法26条4項に基づく理事長による訴訟はできなくなります。しかし現実には困難なことが多いです。また、請求権を持つ区分所有者が集まって原告となるのも作業上容易ではなく、そもそもその請求権だけでは、修繕費として不足することも予想されます。

 現在、この問題点を解決するため、法改正の検討が進められている最中です。

法律相談会専門相談員 弁護士 内藤 太郎

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2024年7月号掲載)