法律Q&A 上階へ伸びる専用庭の木の切除(2024年11月号掲載)
Q
私の住む団地には、1階の居住者が専用使用権を持つ専用庭があります。その居住者が、専用庭に植えた木が3階付近まで伸びて、2階や3階のバルコニー内まで枝が入ってきています。管理組合が、再三にわたり、上階に迷惑にならない高さまで木を切るよう1階の居住者に催促しているのですが、聞く耳を持ちません。どうすればよいでしょうか。
A
他の居住者の迷惑になるような使用方法は許されません。したがって1階の居住者は、上階の居住者の迷惑にならない程度に木を切る義務があります。
原則的な対応としては、管理組合が一定の範囲での木の切除を請求する訴訟を1階の居住者に提起し、勝訴した上で強制執行を申し立て、1階の居住者の費用負担で専門業者に切除させる、という流れになります。しかし、この方法では、時間や労力、そして費用がかかることも多いでしょう。
民法は、「土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。」と規定した上で(233条1項)、「竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき」、「土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。」と規定しています(233条3項1号)。つまり、隣地の木の枝が自分の土地に入り込んでいる場合は、その枝を切るよう木の所有者に言い、それでも切らないときは、自ら枝を切ることができます。
この民法の規定は、横に枝が伸びて境界線を越えた場合の規定であって、ご質問の上階に伸びた場合の規定ではありません。したがって、この規定を直接適用することはできません。しかし、木が伸びたことによって、相隣者に迷惑をかけていることは同様であり、その除去に訴訟及び強制執行で対応すると、時間や労力等がかかってしまうことも同様です。そこで私は、この民法の規定を類推適用して、管理組合が木を相当な範囲で切除することを認めるべきと考えています。類推適用とは、ある規定の趣旨が別の事案についても当てはまる場合に、その規定をその事案についても適用するという法解釈です。上階へ伸びた木について、この民法の規定を類推適用するという考えは、あくまで私見であり、この点について言及した文献や判例は私の知る限りありません。
この類推適用が可能とした場合でも、専用庭に無断で立ち入ることはできません。しかし、専用庭の外にクレーン車を置いて木を切除することが物理的に可能であれば、その方法で木を切除できると考えます。専用庭上の空間については、その居住者が社会的に相当な範囲で排他的な利用ができるに過ぎず、その範囲を超えた空間は、敷地を管理する管理組合の管理下にあるといえます。その境界線を明確にすることは容易ではありませんが、上階に迷惑をかける空間の利用ができないことは明らかです。その迷惑を排除するための作業に必要最小限度であれば、仮に、2階部分に達しているとはいえない空間にクレーンが入ったとしても、受忍限度の範囲内として許されると考えます。
以上から、私見では、訴訟等の手続きを取らずに、管理組合が専用庭の外にクレーン車を置いて木を切除することは可能であり、その費用も木の所有者へ請求できると考えます。
法律相談会専門相談員 弁護士 内藤 太郎
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2024年11月号掲載)