法律Q&A 標準管理規約で新設された所在不明組合員の対応策の内容は?(2025年1月号掲載)

 私たちのマンションは分譲から40年以上が経過して、これまで長く住んでいた組合員の人(家族)が、連絡もなくいなくなってしまうケースが増えてきました。令和6年6月に標準管理規約の改正がなされて、このような所在等が判明しない組合員への対応策を定めた規定が新設された聞きました。どのような内容の改正ですか?また、私たちのマンションでも同様の規定を新設する規約改正を早急に行った方が良いでしょうか?

 令和6年6月に標準管理規約が改正されて、その中で高経年マンションの非居住化や所在等が不明の区分所有者(組合員)の発生への対応策が定められました。具体的には、標準管理規約に(以下、単棟型を前提に説明します。また、令和6年改正前の標準管理規約を「旧標準管理規約」、令和6年改正後の標準管理規約を「新標準管理規約」と言います。)67条の2という規定を新設しました。

 旧標準管理規約(31条)では、組合員の資格を取得、喪失した場合や変更があった場合には書面で管理組合に届け出をすることを義務づけていますが、この届出がなされていない場合があります。そのような場合に(1)共用部分等の管理に支障を及ぼす場合や及ぼすおそれがある場合は、理事長は、理事会決議を経て、区分所有者(組合員)の所在等を探索することができること(2)探索に要した費用は、違約金としての弁護士費用等を加算して、当該区分所有者に請求できる旨の規定が追加されました。

 管理に支障を及ぼす場合としては、管理費等が滞納されていたり、専有部分の管理不全が放置されており、共用部分等への悪影響が生じている場合が想定されます。

 もっとも、管理費等の滞納や規約違反行為について、法的措置をとる場合は違約金としての弁護士費用を請求することが旧標準管理規約(67条)でも定められています。

 法的措置を弁護士に依頼した場合、訴訟提起の前提として区分所有者の所在の探索等のために戸籍や住民票を取得しますが、その費用は弁護士費用に含めて請求できますので、この場合は、規約改正しなくても請求ができます。

 また、管理費等の請求に関しては、旧標準管理規約でも徴収に関する諸費用を滞納者に請求できることが規定されているところ、請求を行うためには所在の把握が必要なので、このような場合も規約改正をしなくても請求可能です。

 他方で、管理費は滞納していないが、法的措置までは考えていない場合の区分所有者等の探索費用は旧標準管理規約では、請求することが困難です。

 ところで、組合員の所在が不明であれば総会の議案や議決権行使書を送付することができないことになります。では、新標準管理規約であればこのような場合に書類の送付先を探すための費用を請求できるでしょうか。

 この点「管理に支障を及ぼす」か「管理に支障を及ぼすおそれ」があることが要件とされてます。単に書類の送付先を調べるためではこの規定の要件には該当しないと考えられます。他方で、総会の成立要件を充足するか否か微妙なケースであれば、管理に支障を及ぼすおそれがあるとの要件該当性が認められる余地は十分にあると思います。

 以上から、旧標準管理規約でも多くの場面では探索に要した費用は相手方に請求することは可能ですので、早急に対応する必要性は高くないと思いますが、新標準管理規約のような規定を置いておかないと請求ができない場面もありますので、規約改正が可能であれば行っておくことが望ましいでしょう。

法律相談会専門相談員 弁護士 石川 貴康

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2025年1月号掲載)