法律Q&A 放置居室の悪臭と棟総会の規約がない団地(2025年3月号掲載)

 団地のX棟Y号室は、居住者が長年にして不在で、その区分所有者の甲さんは、団地外に住んでいます。その居室の窓が少し開けられていて、虫や動物が室内に出入りするようになっているようです。そのため、異臭等が発生し、近隣住民に迷惑がかかっています。甲さんへ、改善を求める通知を再三しているのですが、無視されています。団地管理組合としては、どのように対応すれればよいでしょうか。なお、管理規約には、標準管理規約(団地型)77条(理事長の勧告及び指示等)に相当する規定はありますが、棟総会に関する規定(標準管理規約(団地型)68条以下)はなく、開催したこともありません。

 標準管理規約(団地型)77条に相当する規約または区分所有法57条に基づき、残置物の撤去等を請求する訴訟を提起すべきと考えます。

 前者の規約では、77条3項の「規約若しくは使用細則等に違反したとき」(例えば、標準管理規約(団地型)20条(団地建物所有者の責務)違反)として、同項1号で団地管理組合の理事長が訴訟を提起します。

 他方、後者の同法57条では、同条1項の「共同の利益に反する行為」(同法6条1項)をした場合として、その棟の管理者等(同法57条3項)が訴訟提起をします。同法57条による場合、団地管理組合の理事長は訴訟提起できません(同法57条は、同法66条により団地に準用されていないためです。)。

 ここで、「規約若しくは使用細則等に違反したとき」と「共同の利益に反する行為」とは重なることが多く、本件ではどちらにも該当すると思われます。どちらか一方に手段が限られるのか等、諸説あるところですが、国土交通省が標準管理規約を管理規約のひな形として示していることを尊重し、どちらの手段に基づいても訴訟提起できると私は考えます。裁判所は、規約に基づいた訴訟提起であれば、規約に基づき判断し、同法57条に基づいた訴訟提起であれば、同法57条に基づき判断すべきです。ですので、団地の事情に応じて、どちらかを選択して良いと考えます。棟総会に関する規約も開催実績もないとのことですので(もっとも、規約に規定がなくても、区分所有法に基づき棟総会の開催は可能です。)、団地管理組合の理事会決議に基づき、団地管理組合の理事長が訴訟提起する方が、やり安いかと思います。

 訴訟で全面勝訴してその判決が確定しても、おそらく甲さんが自発的にX棟Y号室を掃除することはないでしょう。その場合は、強制執行を裁判所に申し立てることになります。今回のケースでは、代替執行(民事執行法第171条)という方法で、執行官が甲さんの費用で残置物を撤去等することができる旨の命令を、裁判所から取得すべきと考えます。

 しかし、この命令が出ても、甲さんが負担すべき撤去等の実施費用を、国が立替え払い等してくれるわけではありません。執行官を通じ、廃棄物処理業者等が残置物を撤去等し、それらを廃棄するには、それなりの実施費用がかかります。

 この実施費用をどのように回収するかを含め、この続きは、次回私が執筆担当になった際にご回答します。

法律相談会専門相談員 弁護士 内藤 太郎

集合住宅管理新聞「アメニティ」2025年3月号掲載