法人に管理費を多く負担してもらうことに問題はあるか(2018年7月掲載)

管理費について、法人の組合員には、個人の組合員よりも多く負担してもらおうとの意見が私のマンションの理事会で出ています。問題ありませんか。

管理費の負担は、各組合員の専有部分の床面積に割合に応じてその金額を決めるのが原則です。しかし、規約にこれとは異なる定めをすれば、例外的扱いをすることができます(区分所有法19条)。もっとも、規約に定めれば何でもよいわけではなく、「区分所有者間の利害の衡平」が図られていなければなりません(区分所有法30条3項)。すなわち、法人と個人との間に、管理費等の負担額の差異を認めることに合理性があり、かつその差異の程度にも合理性がなければなりません。

この合理性の判断は、事案によって異なってきますから、個別具体的な事情をもとに判断していくことになります。この点に関しては、いくつか判例があります。

法人と個人との管理費等の差異の合理性を判断した判例(東京地裁平成2年7月24日判決)では、「より合理的な管理費等の定め方等につき、十分な協議、検討が尽くされていない」と指摘して、合理性なしと判断しました。

他方、複合マンションにおいて、店舗部分の区分所有者の負担する管理費を他に比して高く設定することの合理性を判断した判例(東京地裁昭和58年5月30日判決)では、「管理費負担額は、慎重かつ多角的な検討を経たものであって、公正、公平の担保がある」と指摘して、合理性ありと判断しました。

後者の事案では、委員会、理事会、総会という三段階の審議をし、弁護士などの専門家の意見も聴取するなどの過程を経ていました。このように判例は、合理性の判断のポイントとして、管理費等の負担額の差を根拠づける合理的な理由について、管理組合が十分な協議をしたかどうかを重視していると言えます。

法人の組合員に、個人の組合員よりも多くの管理費の負担をしてもらおうとする場合は、法人だからという理由だけでは足りません。判例(東京地裁平成2年7月24日判決)も、単に所有名義のみによって管理費等の負担に差異を設けることは、その手段において著しく不合理であるとしています。差異を設けるのであれば、法人か否かという区別ではなく、例えば、共用部分の実質的な利用状態に応じて管理費等の負担割合を決めるという考え方も成り立ちうると思います。

この点に関し、事業用物件の管理費を通常の倍額とする規約及び理事会決議を区分所有法30条3項に反して無効とした判例(東京地裁平成27年12月17日判決)では、「営利目的の事業用物件については当該居室からの収益が想定されるものの、このことから管理費の負担能力の高さまでが当然に基礎付けられるものとは認められない。」「共用部分の使用頻度の観点から通常の居住用物件と大きく異なるものであるとは考え難い。」などとしています。

管理組合としては、「区分所有者間の利害の衡平」(区分所有法30条3項)の見地から、議論を十分に尽くすことが必要です。

回答者:NPO日住協・法律相談会 専門相談員
弁護士・内藤 太郎
(2018年7月号掲載)