総会で規約の一部改正が可決したが欠席したYさんから議案の「要領」が記載なしの決議は無効だと言い出しました(2009年9月号掲載)
Q
私たちのマンションでは、今回の総会で規約を一部改正する決議を委任状も含めると300名の区分所有者の95%賛成という圧倒的多数で可決されました。ところが、総会にも出席せず、委任状も提出しないYさんが、招集通知に規約改正に関する議案の要領が記載されていないから、総会決議は無効であると言いだしています。確かに、議案には規約を改正する件としか記載していませんが、Yさんも規約が改正されることは知っていたはずですし、仮にYさんが反対しても4分の3以上の賛成という要件は充たします。Yさんの言い分は正しいのでしょうか。
A
区分所有法は35条1項で「集会の招集の通知は~会議の目的たる事項を示して、各区分所有者に発しなければならない」と規定しています。この「会議の目的たる事項」が一般に「議題」と言われているものです。例えば、「規約変更の件」とか「役員選任の件」等と記載されることが多いと思います。
更に、35条5項では会議の目的事項が一定の重要な事項にあたる場合は、その議案の要領をも通知することが要求されています。「要領」とは一言で言えば議案の要約です(内容を簡単に説明したもの)。この重要な事項には規約の設定・変更・廃止が含まれています。
したがって、規約を改正する際に招集通知に「議題」だけを記載して「要領」を記載していないのですから、区分所有法35条5項の規定に違反していることになります。
では、総会の招集手続きに法律違反があった場合に総会の決議は無効になるのでしょうか?法律に違反しているのであるから、決議は無効になると思われるかも知れませんが、例えば、軽微な瑕疵(手続違反)があっても無効とすると法的な安定性が害されてしまいますので、一般的には、重大な瑕疵がある場合は決議は無効であるが、瑕疵が軽微で瑕疵があったことが決議に影響を及ぼさないことが明らかである場合は決議の無効を主張することはできないと考えられています。
では、規約の改正に際して議案の「要領」を記載しなかったことは「重大な瑕疵」でしょうか、それとも「軽微な瑕疵」になるのでしょうか?
この点に関しては裁判所で争われたことがあります。第1審の東京地方裁判所は「軽微な瑕疵」にあたるので無効とはならないと判断しましたが、控訴審の東京高等裁判所は第1審判決を取り消して「重大な瑕疵」があるので無効であると判断しました。規約の改正について単なる「議案」だけでなくその要領をも記載することを要求した趣旨は、規約の改正が区分所有者の権利に重大な影響を及ぼすべきものであることから、区分所有者が予め十分な検討をした上で総会に臨むことができるようにすることの他に、総会に出席しない組合員も書面によって議決権を行使できるようにして、議事の充実を図るためです。
そうすると、議案の要領の通知が欠ける場合は組合員の適切な議決権行使を困難にするものであり、「軽微な瑕疵」とは言えないと考えられます。
したがって、本件ではYさんの言い分は正しいことになります。
総会決議が無効となれば大変なことになりますから、議案の要領を記載すべき場合(共用部分の変更、規約の設定・変更・廃止、建物の大規模滅失の場合の復旧、建替え、団地規約の設定の特例、団地内建物の建替え承認決議等)は必ず、これを記載するようにして下さい。
回答者:法律相談会 専門相談員 弁護士・石川貴康
(2009年9月号掲載)