自己破産者の滞納管理費を回収することができるか? (2003年5月号掲載)
Q.
私は管理組合の理事で管理費の滞納問題を担当していますが、組合員のAさんが管理費を長期間滞納して困っています。Aさんから事情聴取したところ、サラ金からの借金も沢山あり、裁判所に自己破産の申請をしたそうです。
また、Aさんの居室は抵当権者である銀行が競売の申立をしていますが、まだ落札はされずに、Aさんがそのまま住んでいます。
自己破産をすると債務が免除されると聞きました。そうするともはやAさんが滞納した管理費は回収することが出来ないのでしょうか?
A.
最近は経済的不況を反映して自己破産の申立が急激に増えており、このような悩みをもつ管理組合は少なくありません。
まず、Aさんが破産しただけでは債務が免除されるわけではありません。免責の申し立てをして裁判所から免責の許可をもらう必要があります。また、免責の効果は債務が消滅するわけではなくて、強制的な手段で請求することができなくなるとされています。
もっとも、Aさんが裁判所から免責の許可を受けてしまえばAさんに対して裁判を起こしたり、差押えをすることはできませんので、Aさんからの回収が事実上不可能になることは確かです。
ところで、以前競売で落札した場合には新しい所有者は前の所有者の滞納管理費を払う義務があることをこのQアンドAで解説しましたが、破産して免責を受けたAさんのような人の居室が競売で落札された場合、新しく所有者(組合員)となった人はAさんの滞納管理費を支払う義務を負うのでしょうか?
実はこの問題については2つの考え方があります。一つは新所有者が引き継ぐのはAさんの債務であるところ、Aさんが免責を受けている以上新しい所有者もその債務を負わないというものです(便宜上「消極説」といいます)。
もう一つはAさんの滞納した管理費というのはAさんの居室に付随しているもので、たとえ前所有者が破産して免責を受けたとしても物件の新所有者は滞納管理費の債務を引き継ぐというものです(便宜上「積極説」といいます)。
私が現時点では調べた限りではこの点について判断した裁判例はありませんでした。管理組合の側に立って仕事をしている弁護士は積極説を支持している人が多いと思います。私も個人的には積極説を支持していますが、今後裁判所が消極説に従って判決をすることは十分に考えられます。
しかし、裁判所の判断はまだ出ていないのでありますから管理組合としては積極説を前提に競売で落札されれば新しい所有者に請求すべきだと考えます。
なお、自己破産の申請をして最終的に免責の許可を受けたとしても、その免責の効果は破産宣告時に負っていた債務に限られます。したがって、破産宣告を受けた以降の管理費はAさんに対して請求することはできますし、裁判上の強制的な手段を取ることも出来ます。
回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川貴康
(2003年5月号掲載)