マンション法律Q&A 組合員名簿の閲覧(2019年9月号掲載)
A理事から臨時総会招集のため組合員名簿の閲覧を求められたが、見せなくてはいけないのか?
Q
私は管理組合の理事長をしております。今回理事の1人であるAさんから組合員の5分の1以上の賛成を集めて、臨時総会の招集を求めるつもりであるから、組合員名簿を見せて欲しいという要求がなされました。
私に対して臨時総会を招集して欲しいという要望もありませんでした。それでも組合員名簿は見せなくてはいけませんか。
また、組合員名簿には電話番号も記載されています。これら全ての情報を見せなければならないのでしょうか。
A
本件と同様に理事の1人が理事会を通さずに、臨時総会を招集するために組合員名簿の閲覧請求したことの可否が争われた裁判例があります(東京地方裁判所平成29年10月26日判決)。
この裁判で被告となった管理組合は、原告(閲覧請求した理事)は突然、理事会に出席しなくなり、閲覧請求の根拠となる議案の内容について理事会で提案や説明もしてないので、閲覧請求は権利の濫用であると反論しましたが、裁判所は「本件閲覧請求は、被告の組合員である原告が、組合員による総会招集権を行使して本件規約の改正を内容とする本件議案を総会に提案するため、他の組合員の連絡先を把握することを目的としている。まさに組合員としての正当な権利行使のための名簿の閲覧請求であって、本件閲覧請求の目的に不当性又は乱用的な側面を見いだすことはできない。
被告は、原告が理事会を通さずに本件議案を直接総会に提案することが問題であるなどと主張するが、被告又は被告の理事会がそのように考えるのであれば、本件議案が提案された総会においてその旨主張し、他の組合員の賛同を得るように努力すべきであって、本件議案の総会への提出自体又は本件閲覧請求が妨げられる理由にはなり得ない」として、原告の閲覧請求を認めました。
さらに、この裁判で、被告管理組合は、仮に閲覧請求が認められるとしても、閲覧の範囲は、自宅電話や携帯電話は機密性が高い個人情報であるから、除外すべきで、閲覧の範囲は「組合員の氏名、部屋番号及び送付先住所」に限定されるべきであると主張していました。
この点に関しても裁判所は「本件閲覧請求は、組合員による総会招集権の行使という被告全体の利益に資する重要な権利の行使を準備するためにされており、その目的の重要性に照らすと、本件名簿に個人情報が記載されているとしても、その閲覧の範囲を限定することには慎重な検討が必要である。」として組合員名簿の情報全てについて閲覧を認めています。
他方で、裁判所は閲覧の範囲を限定しない理由として「被告が本件議案の総会への提案自体を阻止することを目的として本件請求を拒否していると認められる」ことを指摘しており、被告管理組合の閲覧拒否の理由が不当であることが閲覧の範囲を限定しない理由としてます。
通常は、総会招集が目的であれば、氏名、住所、部屋番号等が分かればよく、自宅の電話番号や携帯番号までは必要性はないと思います。
管理組合としてはAさんの閲覧目的が総会招集のためであることが認められるのであれば、閲覧を認めた上で、Aさんに対して電話番号は必要性を確認した上で、その理由が合理的でない限りは、電話番号は除外して開示することも許されると考えます。
回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川 貴康
(2019年9月号掲載)