Q&A/共用廊下に植木鉢等を置く区分所有者に撤去の裁判を起こす為の総会決議は必要?(2020年3月号掲載)
Q
マンションの共用部分である廊下に、植木鉢などの私物を置いて利用している区分所有者がいます。管理組合から撤去の要請を再三しているのですが、まったく応じてもらえません。そこで、撤去を求めて管理組合が裁判を起こしたいのですが、そのためには総会決議が必要でしょうか。当管理組合には、「区分所有者が規約や使用細則に違反したときは、理事会決議により裁判を起こせる」旨の規約があり、使用細則で、廊下に植木鉢などを置くことは禁止されています。
A
理事会決議により訴訟提起できる旨の規約があるのですから、一見すると、総会決議を要せず、理事会決議限りで訴訟提起することは問題なさそうです。しかし他方で、区分所有法57条1項と2項は、区分所有者の「共同の利益」に反する行為(区分所有法6条1項)につき、行為の停止やその結果の除去等を請求する訴訟を提起するには、総会決議を要求しています。廊下に植木鉢等を置いて、あたかも自分の庭のように使う振る舞いは、「共同の利益」に反するようにも見えますから、法57条に従えば、総会決議が必要となりそうです。
まず形式的に、①規約細則には反するが「共同の利益」には反しない行為、②規約細則にも「共同の利益」にも反する行為、③規約細則には反しないが「共同の利益」には反する行為、の3類型に分けて考えてみましょう。①は総会決議不要で、③は総会決議必要と考えられますが、問題は②です。通常、訴訟までいく案件では、②の類型が多いと思いと思います。今回ご質問の案件も、②に該当しそうです。
法律(区分所有法など)に反する規約の運用は許されません。法57条は、「共同の利益」に反する行為の停止やその結果の除去等を請求する訴訟を提起するには、常に総会決議を要求しており、例外を認めていません。規約で別段の定めはできません。したがって、規約細則と「共同の利益」の双方に反する行為をやめさせようと訴訟提起する場合は、総会決議を取っておくのが無難です。
ここで「無難」という曖昧な書き方をしたのは、この論点については、あまり議論が活発とはいえず、判例も見当たらないからです。実際の裁判では、「共同の利益」に反する行為の案件で、理事会決議限りで総会決議を取らず、規約細則違反のみを主張して訴訟追行し、認められることもあるかもしれません。しかし、訴えられた側が総会決議がない旨反論してきた場合などは、訴えが不適法と判断されることもあり得ます。
標準管理規約は、「共同の利益」に反する場合に法57条に基づき必要な措置をとることができるとする一方で(単棟型66条)、規約細則違反の場合に理事会決議により訴訟で行為の差止め等ができると規定しています(単棟型67条3項1号)。そのため、その適用範囲について混乱が生じることも少なくないかと思います。例えば、「せっかく規約を標準管理規約どおりに改正して、理事会決議限りで差止めや原状回復の請求などの訴訟提起できるようにしたのだから、もはや総会決議は必要なく、理事会限りで迅速な対応ができる」と考える方もいらっしゃると思います。しかし、「共同の利益」が問題となり得る案件では、総会決議を取って訴訟提起することをお勧めします。
(2020年3月号掲載)