衛生放送共同アンテナ設置と既個人アンテナの撤去を決議。しかし、撤去しない組合員が… (2006年3月号掲載)

Q.

私達のマンションでは、オリンピックやワールドカップを見たいとの組合員の希望が多くあったので、衛星放送受信用の共同パラボラアンテナの設置と既に個別に設置している人に対する撤去をもとめることを総会で決議しました。ところが、前から個人でパラボナアンテナをバルコニーに設置していたXさんから自分は共同パラボラアンテナの設置費用は払わない。個別アンテナも撤去しないと言っています。管理組合としてはどう対応したらいいでしょうか?

 

A.

東京地方裁判所の平成3年12月26日判決が本件とほぼ同じ事件について判断しており、結論として個別のアンテナの撤去と共同パラボラアンテナの設置費用の分担金を支払を認めています。

以前このQ&Aで取り上げたことがありますが、バルコニーに温室を設置した事件で、最高裁判所は、バルコニーが共用部分である以上、その使用については規約、総会決議により美観や避難通路としての効用保持等理由とする、相当広範な制約が可能であると判断しています。バルコニーを温室にすることと比べれば個別パラボナアンテナの設置は影響が少ないことは明らかであり、バルコニーの使用制限の問題としては、規制が認められるか?相当微妙な事案であることは間違いありません。

東京地裁の判決は「本件マンションではエアコンの室外機はバルコニーに設置してもよいことから、個別アンテナをバルコニーに設置することは一応、『バルコニーとしての通常の用法』内にあった。しかし、『バルコニーとしての通常の用法』であるか否かは、固定的なものではなく、社会状況の変化や本件マンションの持つ条件の変化により変わり得るものというべきところ、
1.本件マンションでは、共同パラボラアンテナが設置され、これによって衛星放送を受信できる事
2.そもそもバルコニーは共用部分であって、被告はただ専用使用を許されているに過ぎない事
3.NHK等で構成するテレビ受信向上委員会が発行したパンフレットにも個別受信についての留意点として、『管理者の承諾必要』と明記されている事
等から共同パラボラアンテナが設置された以降は個別アンテナを設置する事は『バルコニーとしての通常の用法』とはいえなくなった。」と判断しています。

総会決議前から個別アンテナを設置していたXさんに自己負担で撤去を求めることや衛星放送を受信したくない者にも共同パラボナアンテナの工事費用を分担させることに疑問を持つ読者の方もいるかもしれませんが、個別アンテナの撤去自体は容易であること、当初のアンテナの設置費用もそれほど高額でないこと、衛星放送の受信はかなりの程度で普及しており、一部特殊な者の趣味ではないこと、共同パラボナアンテナの工事費用を分担することによって区分所有者は、誰でもいつでも衛星放送を受信することが出来るようになるのであり、負担ばかりではなく、利益も受けるのであり、衛星放送の設備が備わっていることによって、マンションの交換価値も高まることを考慮すれば、本件総会決議が、不当、不合理なものとは言えず、Xさんは決議に拘束されるべきであると考えられます。

以上から、管理組合は原則としてXさんに対して、パラボナアンテナの設置費用負担と個別アンテナの撤去を求めることが出来ます。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川貴康
(2006年3月号掲載)