組合員が居室を保育所として使用。やめさせることはできるか? (2008年1月号掲載)

Q.

組合員の1人であるAさんは病院を経営しています。Aさんは201号室と202号室の2室を所有しているのですが、202号室を看護婦さん達の子供の保育所として利用しています。子供達が部屋の中を走り回り、周りの組合員らから苦情が来ています。規約では「住宅として利用する」と規定しているので保育所として利用することは規約に違反していると思うのですが、やめさせることはできるでしょうか?

 

A.

標準管理規約には「所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない」という規定があります。多くのマンションもこれを真似て同様の規定を置いています。

今回の質問と同じことが裁判所で争われたことがあり、横浜地方裁判所の平成6年9月9日判決は、結論としては、管理組合側がAに対して求めていた居室を保育所として利用することの差し止めを認めています。

もっともこの裁判で裁判所は次のように述べています。

「マンション形式の集合住宅では、相互に生活空間が接しており、それぞれの居住場所での生活が相互に他に影響しやすくなっている(略)のであるから、このような生活空間に居住し、これを利用する住民は相互に他の利用者に迷惑をかけないように生活するということが最低限のルールである。そして、このように密接した生活空間に居住する者は、騒音、振動、臭気等についてはそれぞれが発生源となり得る関係にある以上、それが多少のものである限り、いわば『お互い様』という言葉を持って表現されるように、相互に我慢し合うことが必要であるが、これが、一定の許容限度を超えるならば、それは建物の区分所有等に関する法律6条1項所定の『区分所有者の共同の利益に反する』として、このような使用方法が許されなくなるというべきである。そして、これを判断する際には、当該行為の性質、必要性の程度、これによって他の住民等が受ける不利益の態様、程度等の事情を十分比較して、それらが住民等の受忍の限度を超えているかどうかを検討するのが相当である」。

特に読者の皆さんに注意してもらいたいのが、裁判所は形式的に規約違反行為があるからといって、直ちに使用禁止を認めているわけではなく、当該行為(規約違反行為)の性質や必要性とそれによってもたらされる住民の不利益の程度を比較衡量して判断しているということです。

保育所として使用しているため騒音や振動の被害が大きいことやAは保育室を他に求めることが出来ることなどを考慮して、受忍限度を超えていると判断したと言えます。

質問の事案でも騒音や振動が大きければ保育所としての利用を差し止めることが出来ます。裏を返せば、形式的には規約に違反している行為があっても、違反の程度が軽微で、他の住民が受けている不利益が小さい場合は利用の差し止め請求までは認められない場合もありうると言うことです。

ただ、そのような場合であっても当該行為が規約違反であることに変わりありません。形式的には規約違反があっても差止請求という強硬手段が認められる場合と認められない場合があるということです。この点も誤解しないようにしてください。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川貴康
(2008年1月号掲載)