Q&A 管理組合理事の善管注意義務とは?(2020年11月号掲載)

 マンションの管理組合の理事は、管理組合に対して善管注意義務を負っていると聞きました。その内容を教えてください。

 おっしゃるとおり、理事は管理組合に対して善管注意義務を負っています。

 これは、理事と管理組合との法律関係が委任契約と解されているためです。その委任契約に基づく義務として(民法644条)、理事は、組合員のために、誠実に理事の仕事をしなければなりません。理事が、善管注意義務に違反して管理組合に損害を与えた場合は、その損害をしなければなりません。

 誠実に仕事をするとは、まず、サボらずに仕事をするということが当然あります。しかし、どの程度サボったら善管注意義務違反となり、管理組合に生じた損害を賠償しなければならないかは、ケースバイケースで、その管理組合の実情等にもよります。ですので、例えば滞納管理費の督促を放置していて、消滅時効期間(5年)が経過してしまった場合でも、必ずしも善管注意義務違反として賠償責任が発生するとは限りません。もっとも、善管注意義務違反の賠償責任を問われる可能性もありますので、長期間の滞納放置は禁物です。

 次に、理事は、理事の仕事をするにあたって、私的な利益を求めてはいけません。これに違反して管理組合に損害を与えた場合は、その損害をしなければなりません。

 この点は、善管注意義務の内容として、昨今特に注目されている点です。標準管理規約においても、平成28年の改正で、理事が得する反面管理組合が損をするおそれのある取引(利益相反取引)について、理事会での重要事実の開示と承認を必要とする規定が新設されるなどしています(標準管理規約(単棟型)37条の2など)。

 理事が、管理組合の犠牲の下に、自らの私的な利益を追求してはいけないという点については、東京高等裁判所令和元年11月20日判決(金融・商事判例1589号24頁)が参考となります。

 この判例の事案は、理事長が、自らの住戸の転売価格維持のために、小規模な雨漏り修繕工事の必要性しかないのに、マンション全体の大規模修繕工事の必要性があるとの説明をして、総会決議を経て管理組合に工事代金を支出させた、という事案です。

 この判決は、大規模修繕工事を行う必要性や、理事長の私的な利益を図る目的などを検討し、理事長の善管注意義務違反に基づく賠償責任を認めました。総会決議を経た上で、工事代金支出した点についても判決は、「当該職務の遂行が総会又は理事会の決議に基づくものであったことは、賠償責任を免れる理由にはならない。私的利益を目的とすることを隠し、総組合員の利益を目的とすることを装って総会又は理事会の決議を得たからといって、善管注意義務の違反があることに変わりはないからである。賠償責任を免れるためには、委任者(管理組合)から責任を免除する旨の意思表示を受けることが必要である。」と、明確に判示しています。

 以上、善管注意義務の内容は、大きく分けて

 ①サボらない(職務怠慢をしない)
 ②私的な利益を求めない

の2つに大別できると思います。なお、理事が善管注意義務に反せずに仕事をした結果、残念ながら管理組合に損害が生じたとしても、理事が賠償責任を負うことはありません。

法律相談会専門相談員 弁護士 内藤 太郎

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2020年11月号掲載)