フランスのマンション 日本のマンション

1 似たところ

 新型コロナウイルス禍が収まり、海外へ出かける機会が戻ってきた。日本人がヨーロッパで行きたい旅行先として常に人気があるのがフランス。読者の中にもその街なみに見惚れた方は多いと思う。マンションは、街なみの魅力を作る重要な要素の一つだ。私は学生時代から計6年半フランスで暮らし、学生寮とマンション(借家人ですが)に住んだ。さらに日本人が寄付したパリにある学生・若手研究者向け寮を2年間経営し、地元工務店へ工事を発注したり会計事務所へ監査を依頼したこともある。その経験を踏まえて、フランスのマンション事情を今月から6回で紹介する。なおこの連載で「マンション」とは、日本の定義と同じく、区分所有建物でそのうち少なくとも一つの専有部分が居住の用に供されているものとする。

 第一回は、フランスと日本でマンション事情が似ている点を紹介する。似ている点があるのか?とお疑いの方もまずはお読みください。

 似ている点の第一はマンションの使われ方。フランスでも日本でもマンションは普通の住宅として多く使われている。フランスでは別荘などを除いた主たる住宅2600万戸ほどのうち、マンションは660万戸、率にして27 ~30%を占める。日本では全住宅数6000万戸中にマンションは700万戸弱、その率は12~17%である。他の先進国を見るとドイツでは4000万戸強の住宅のうち600万戸ほどがマンションで、その割合は日本より若干高めの15%くらいだが、イングランドではマンションの統計がなく全住宅2400万戸強のうちマンションは145万戸、率で5~6%しかない。

 マンションが都市圏に偏っているとはいえ通常の住宅として多く使われていると、その存在が政治・経済・法など幅広い議論の的になる。

 その議論の結果として定められる「※マンションを巡る法律」が日本とフランスでは似ている。

 まずマンションの権利構成が似ている。日本は建物が各区分所有者の所有権の対象となる専有部分と全部あるいは一部の区分所有者の共有の対象となる共用部分に分かれ、土地は全区分所有者が敷地利用権を有する。フランスでは不動産につき土地建物一体の原則を取るので、専有部分と共用部分しかなく、敷地は共用部分に含まれる。見逃せないのは両国とも法は専有部分と共用部分・敷地の分離処分を原則として禁止している。

 次にマンション管理を巡る法の展開も似ている。(表参照)

 高度成長期にマンションが増え、現行の区分所有法を制定したのは日本は1962年、フランスは1965年である。そして老朽化・荒廃が問題になり、その対策を強化するための法の整備は、日本では管理適正化法制定の2000年と行政法的性格を有する建替え円滑化法制定の2002年に始まる。

 フランスでは1994年に管理組合の財政赤字が悪化した場合の措置のための区分所有法改正、2000年に修繕不能なマンションの取壊制度を創設するための行政法の建設・住居法典改正が転換点を成す。

 老朽化・荒廃を超えてマンションの維持管理の工事実施を積極的に促す施策、とりわけ行政の介入強化のための法改正は、日本では2020年の管理適正化法改正による管理計画認定制度と建替え円滑化法改正による要除却認定対象の拡大がそれに当たり、フランスでは2014年に日本の長期修繕計画に相当する複数年工事計画と修繕積立金に相当する工事基金を健全なマンションを含めて全体に広く義務としたことが重要である。

 フランスのマンションと日本のマンション。一見したところではずいぶん違うが、住宅として互いに抱える課題は近い。

※鎌野邦樹編『マンション区分所有法制の国際比較』大成出版社、二〇二二

新潟大学 人文社会科学系フェロー 寺尾 仁

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2024年4月号掲載)