フランスのマンション 日本のマンション

2 異なるところ

 先月はフランスと日本のマンションの似た点を紹介したが、今月は異なるところを紹介する。

 初めは、マンションの成立。日本でマンションが出来るのは、新築集合住宅が完成して最初の一戸の売買が成立した時である。フランスでも集合住宅が完成して最初の一戸が売れた時にマンションとなるが、それだけではない。既に建っている単独所有の建物の所有権が、相続や抵当権の実行によって分割されマンションになることも珍しくない。現存のマンション戸数のうち40 %以上を1947年以前に建築された建物内の住戸が占める※1のはこのような経緯からで、フランスでも不動産ディベロッパーという業種が成長するのは1950年代以降になる。

フランスにおける区分所有建物の建築年代別戸数
上から順に1851年~1913年、1914年~1947年、1948年~1969年、1970年~1979年、1980年~1989年、1990年~1999年、2000年以降
出典 ※1に同じ

 次に管理に携わる人たちも大きく異なる。

 第一は管理者。日本ではマンションに居住している区分所有者の中から理事が集会で選ばれ、その互選による理事長が管理者に当たる。フランスでは戸数で90%のマンションの管理者は管理会社である※2。第三者管理が圧倒的多数であり、自主管理は10%に満たない。もっともこの数値は分母を棟ごとでなく戸ごとで計算した値なので、一棟に多くの住戸がある大規模マンションの管理者には管理会社がなることが多いといえる。

 第二は理事会の機能。日本では理事会は毎月または二月ごとに開催され、管理会社のさまざまな提案に目を通す。フランスではおおむね年一回、区分所有者の集会の直前に開かれる程度である。

 第三は居住者団体である自治会がないこと。フランスではマンションに限らずどこでも自治会・町内会は結成されない。回覧板、春秋の全国交通安全運動、消防訓練はなく、家庭ごみは戸別収集される。

 修繕積立金の扱いも異なる。日本では1982年制定の中高層住宅標準管理規約が修繕積立金を制度化したが、フランスでは区分所有法制定以来、共用部分の管理・変更には工事ごとに予算を集会で議決して施工し、完了後に精算して残額があれば返却していた。1990年代以降、マンションの荒廃とともに区分所有者に多様な工事実施を促す必要が高まり、2014年の区分所有法改正で「工事基金」を定めた(現14―2―1条)。なお、この改正では、中期修繕計画も定めた(14―2条)。

 基金設立は建物の引渡し後10年を経過したマンションに義務づけられ、金額は中期修繕計画で定めた工事の費用総額の2・5%以上、毎年の管理組合予算額の5%以上とされる。各区分所有者が払うお金は管理組合の所有となるので、区画の売買の際に未使用金額があっても売主に返金されない。ただし工事のたびに費用を徴収する慣習に倣って、実務上は買主から売主へ未使用額と同額の金銭を渡すようである。 日本で不動産売買にあたり固定資産税・都市計画税を日割りして買主が売主へ支払う慣行と似ている。

※1  INSEE(フランス国立統計経済研究所)、 Les conditions de logement en France Edition 2017 (フランスにおける住宅事情 2017年)p119
※2 同前

新潟大学 人文社会科学系フェロー  寺尾 仁