フランスのマンション 日本のマンション(2024年6月号掲載)

その3 管理者

一.マンション管理者とは   

 管理者の機能は、フランスと日本のマンションの間で異なる点の一つである。

 フランスの管理者(syndic)は、管理組合※1の法定代理人とされる。その任務は、区分所有の財務と運営の管理であり、そのために共用部分と附属施設の良好な利用・享受を維持することである(区分所有法(以下別記の無い限り条文は区分所有法)18条)。

 管理者は管理組合総会の議決で選ばれる。管理組合は管理者を必ず選任しなければならず、選任できない場合は地方裁判所が任命する(17条)。

 管理者には、免許をもつ職業管理者と、区分所有者の中から選ばれる自主管理者の二種類があるが、全国の区分所有住宅戸数の90%の管理者は職業管理者である。職業管理者の免許は、不動産取引仲介業者、賃貸住宅管理業者と同じ免許である。求められる専門知識は大学法学部・経済学部3年修了の法学士・経済学士が標準的。他に保証金、民事責任保険への加入が条件である。マンション管理者の免許状には「区分所有管理者」と記される(1970年1月2日の法律1条)。

二.管理者の歴史

 不動産管理という業務の歴史は区分所有法よりもはるかに長く、起源はフランス革命前の王政時代に執事が行っていた領主の財産管理に遡るとされる。賃貸不動産管理業者の団体、全国賃貸不動産管理業者連盟(CNAB)は1945年結成。会員に仲介業者が多く、今日ではマンション管理業者も多数加入している全国不動産業者連合(FNAIM)は1946年に結成された。しかし、業者の地位が法制化されるのは遅く、1970年に不動産業者全体の資格と業務を定める法律※2が制定された。

 フランスの業界事情は、日本の管理業者団体、日本高層住宅管理業協会(当時)を、マンション・デベロッパーとビル管理業者が組織したことと大きく異なる。フランスのマンション管理は不動産の価値の維持・増加を任務とする資産管理であり、日本の管理は建物管理に重点を置くという違いが見られる。

三.管理組合との関係

 管理者と管理組合の法律上の関係は、委任契約である。職業管理者が管理する場合、日本で言う第三者管理方式で行うが、管理者の高圧的な態度と業務の不透明性のために管理組合との間できわめて多くの争いが生じた。※3

 例えば、管理組合総会招集通知に記載される議題の説明が十分か不十分か、管理者が行う作業が管理者契約で定める管理費で行う業務(例 日常の維持管理)か、管理者契約とは別の契約に基づく業務(例 工事)か、などである。

 争いの原因は、制度上も実務上も管理組合が管理者を監督する力が弱いことによる。区分所有法は、一方ですべての管理組合は管理者を補佐し、かつ監督するために区分所有者による理事会を設けると定めつつ、他方では管理組合総会で理事を選任できないことも許している(21条)。実務上は、先月記したとおり理事会が設けられていても年一回程度しか開催しない理事会が多い。

四.管理組合保護へ

 このような事態に対処するために、2014年に区分所有法は管理者の行動を詳細に定めるよう改正された。例えば、理事会は職業管理者の選任に当たって管理組合総会前に複数社から相見積を取ること(21条)、管理者の職務行使に係る契約は標準管理者契約約款(以下「約款」と略)を遵守すること(18―1A条)、管理者報酬額は約款に従い、その報酬額外の報酬を請求できる場合も約款に従うこと(同前条)、管理者が管理組合から受取る金銭は組合ごとの個別口座で管理すること(18条)などである。

 法改正の結果、管理組合への消費者保護は拡充したが、契約内容の自由度は制限され、管理業者の不満は大きい。近年は、自らは職業管理者にならず自主管理者へ助言する新しい業態の企業が業績を伸ばしている。

 一連の動向は、日本で第三者管理方式を広める制度を設計するに当たり、参考に値すると私は考えている。

※1フランスの管理組合はすべて法人である。
※2この法律については『フランスの民間賃貸住宅』日本住宅総合センター、2005、第3章を参照。
※3TOMASIN. D. et CAPOULADE, P. (dir.) – La Copropriété(区分所有)、10eéd., Dalloz, 2021, p.708

新潟大学 人文社会科学系フェロー  寺尾 仁