フランスのマンション 日本のマンション(2024年8月号掲載)
その5 気候変動対策
一 はじめに
フランスでも建物セクターは気候変動対策の主な対象の一つである。二酸化炭素排出量の27%、最終エネルギー消費の約45%が建物セクターによる。ちなみに日本の建物セクターは、二酸化炭素排出量の33%、最終エネルギー消費の30%を占めている(環境省、国土交通省)。
二 建物診断
フランスの気候変動対策においてマンションに求められる出発点は、建物のエネルギー効率診断である(建設・住居法典法第126―26条以下)。
診断内容は、建物の①エネルギー消費、②温室効果ガス発生量で、マンションを含む集合住宅では建物全体と各住戸を別に診断する(同法典令第126―20条)。この結果は、A~Gの7段階で示され貼付票で表示される(図参照) 。この表示は家庭電化製品にも共通である。
診断は、建設分野の資格認証機関から資格を付与された専門家が行う。 診断結果が下位二段階、FかGとされた建物は、エネルギー浪費建物と評価される。2028年以降、エネルギー浪費建物は住宅としては使用できない(同法典法173―2条)。借家ではより早く2025年以降、評価Gの建物は居住用に賃貸できない。
三 中期修繕計画
性能不足のマンションは、性能を向上させる工事が必要となる。区分所有法は、築15年以上のマンションに中期修繕計画の案の作成を義務づけている。計画の内容は①不動産の保存、占有者の健康と安全、省エネルギーの実現、温室効果ガス削減に必要な工事の一覧、②工事によるエネルギー効率改善の見積、③工事費見積と工事の優先順位、④今後10年間の工事予定表を含む。すなわち、気候変動対策を含むマンションの総合管理計画である。
中期工事計画案を作成するのは、管理者ではなく、コンサルタント、建築家、温熱環境エンジニアなどであり、管理者、エネルギー供給業者、建設業者から独立していなければならない。
管理者は、計画案作成後の最初の管理組合総会にこの案を議題として提出する。
区分所有法が義務づけているのはここまでである。管理組合は総会で計画案を審議し、全区分所有者の議決権の過半数で議決する(1965年区分所有法第14―2条)。
四 工事実施
中期修繕計画を定めた管理組合は、計画で決めた予定に従って工事を実施する。
中期修繕計画を議決しないマンションには、エネルギー性能を満たすために三つの選択肢がある。 第一は、省エネルギー工事に特化した工事の一覧とその実施予定、工事費見積を作成して、管理組合総会で議決する。第二は、管理組合が事業者との間で、エネルギー効率改善プロジェクトまたは再生可能エネルギープロジェクトの実施とそこから得られる収益をプロジェクト実施の対価として支払う契約を結ぶ。第三は、必要な工事を管理組合が個々に実施を議決する。
工事を実施するには、発注者である管理組合の伴走型支援が必要となり、支援は次の3つの原則に則る。①技術面、行政面、財務面、社会面を統合した支援、②有資格者による支援、③国による工事補助金の中には支援を受けることの義務づける制度もある(エネルギー法典法第232―1条以下)。
参考文献 寺尾「気候変動対策とマンション管理」山野目ほか編『マンション区分所有法の課題と展開』日本評論社、2022
新潟大学 人文社会科学系フェロー 寺尾 仁
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2024年8月号掲載)