フランスのマンション 日本のマンション(2024年9月号掲載)

その6 管理者の独立性

一 はじめに

 四月に始めたこの連載も今回が最終回となった。日本では管理業者が管理者となる第三者管理者方式を普及させる動きが大きくなる中、管理者の利益相反防止を筆頭に消費者としての管理組合保護の必要もまた大きくなっている。そこで最終回はフランスの管理者の独立性を取り上げる。

 連載第二回(五月号)で記したように、フランスのマンション管理では第三者管理者方式が主流である。そこでは管理組合保護の強化に向けた長い歴史があることは連載第三回(六月号)で紹介した。

 今回はデベロッパーや施工会社に対する管理者の独立性を紹介する。管理者の独立性の確保には実体規制と手続きの二面から対策が施されている。

二 実体規制

 管理者には、管理業者である職業管理者と区分所有者である非職業管理者がある。職業管理者、すなわち第三者管理者は、不動産業の職種、例えば不動産仲介業、不動産管理業など全般に対する業法(1970年1月2日法)に従い、職業許可証を取得して職業倫理義務を果たさなければならない(1967年区分所有法政令付則1「管理者契約約款」前文)。

 職業倫理義務は「不動産仲介業者、不動産管理業者、区分所有管理者、不動産取引票売買業者の職業倫理規程」(政令2015―1029号付則)が定めている。利益相反防止は同規程9条が次のように定める。

 管理者は、管理組合との間で利益相反に陥らないよう注意する。とりわけ次の義務を負う。

 管理組合に伝えずに、受任している不動産を自ら取得しないし、管理者の近親者または持分を有する会社に取得させない。費用負担の事前合意がない場合、管理組合に生じた費用という名目で、管理組合から報酬または給付を受け取らない。物品・サービス提供業者の選択方法と明細書を開示する。管理組合に対して、利益相反の可能性とその理由を伝える。とりわけ役務を提供する企業、銀行、金融機関について、管理者または管理者が属する機関の管理職および法律上の資格を有する事業者がもつ、資本または法的性質の直接的な関係、さらにより広く職務の執行において直接または間接の個人的利益を伝える。

三 手続

 区分所有の開始から最初の管理組合総会まで管理を担う仮管理者は、区分所有規約案の中で定められる。規約案は、公証人が作成することが多い。任期は最初の管理組合総会までであり、管理組合は総会を少なくとも年1回開催しなければならないので、最長で1年である。

 正式の管理者は管理組合第1回総会で選任されるが、総会前に管理組合理事会または理事会を結成していない管理組合では区分所有者が、複数の管理者候補者から管理者契約の相見積を取らなくてはならない(1965年区分所有法第17条)。第1回総会前には通常は理事会が結成されていないので、実務上は区分所有者が行うことが大半とされる。

 総会では、管理者選任は別の議題とは区別された一件の議題として相見積を添えて審議され、区分所有者全員の議決権の過半数で議決される(区分所有法第25条)。任期は最長3年で(区分所有法政令第28条)、2回め以降の管理者選任については、理事会を結成している管理組合では、理事会が管理者契約の相見積を取る(区分所有法第21条)が、理事会を結成していない管理組合では相見積は義務ではない。

四 まとめ

 実体規制と手続きを合わせてフランスでは管理者は次のように選任される。

 まず管理規約案をデベロッパーではなく公証人が起草し、その中でデベロッパー、施工会社、当該工事に融資している金融機関等とは資本上も法律上も関係の無い管理会社を仮管理者に任命する。

 管理組合第1回総会前に、区分所有者が複数の管理会社から相見積を取る。デベロッパーや施工会社等の関連会社は排除されないが関連会社である旨を明示する。

 管理者は、維持管理・修繕工事業者の選定にあたって自社と資本上も法律上も関係のない会社と契約を結ぶか関連会社と契約を結ぶ場合はその旨を明示する。

 第1回総会では相見積を踏まえて管理者を選任し、実務上は毎年管理者契約を結ぶことが多いようだが、3年毎に相見積を取って管理者を選任する。

 本稿は、一般財団法人司法協会研究助成の成果の一部である。

新潟大学 人文社会科学系フェロー  寺尾 仁

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2024年9月号掲載)