19.憂欝な警鐘 Ⅰ

 昨年末からこれまでに、日本不動産学会、私法学会、土地法学会等は挙って、「所有権放棄」をテーマとする大会を開催している。背景には、120余年ぶりの民法改正を踏まえ、物権法改正の焦点として、所有権が放棄できるものなのかどうかを見極めるための議論である。

 報道では、所有権につき、使用・収益・処分の自由は認めているものの、放棄については触れられていない。ところがドイツではそれが認められている。わが国でも参考にしてはどうか。こういったトーンが背景にはある。

 ご存知のように、わが国における土地所有権については、所有者不明である土地が九州を超える面積に達したとの云われ、いわゆるショックが国全体に広がっている様相だが、これといった対応策が確立している訳ではなく極めて憂欝な状況を呈している。国も地方自治体も法律、条例によって打開策を探っているように見えるが、これらが決定打になるとは思えない。

 ところで、筆者の最大の関心事は何か。他でもない。所有権の対象である分譲マンション、住宅団地に、これがどのように関わってくるのか。影響を及ぼすのかということである。恐らく只事では済まされぬ。実はこの点につき、先駆的にしかもデータを駆使し読者に訴え警鐘をし続けたのは、他ならぬ当シリーズの前任者である松本恭治先生(「新マンション事情」他)に他ならない。

 したがって、読者の皆さんは、学会、研究会等の報告よりも先に、薄々マンションの置かれている状況は、承知の事実ということになるのだろう。ただ確実な対応策となると、五里霧中。ただ憂慮が積み重なる状況が続く。

          

マンションは安全・安心の住まい 雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ… タワマンは大丈夫?

 都市的居住形態として、すっかり定着しているとされるマンションだが、所有者不明の土地問題と居住者不明のマンション問題(空家、放置)は、多くの点でリンクしているものの、両者の打開策と予防策は大きく異なるように思われる。先ずは、これまで登場してきた所有者不明の土地問題の打開策を概観しておこう。

 そもそも所有権の放棄を日本法は否定しているのかというとそうではなく、放棄できるが、どうすれば放棄できるかがないというのが印象だ。特に動産であれば、放棄は可能。民法改正(物権法)の動きからすると、不動産の場合、法239条2項が直接「国庫に帰属」とするが、放棄された土地を一度、帰属先機関に帰属させ、プールした上で考える。利用先が見当たらなければ、国庫に帰属するとなるが、これは最後の手段だという見方であろうか。

 一方、予防策の方は、不動産登記法の改正を準備。相続登記、住所変更登記の徹底に加え、所有者不明の原因の一つとされる共有制度の見直しをも射程に含めている。
 判例はと云えば、土地所有者が自分の持っている土地の所有権を放棄し、国に委ねたいとし、土地所有権の放棄により国に帰属、土地所有者から国へ所有権移転登記を求めたところ、棄却された事例がある(広島高判・平成28年12月21日)。

 原審及び高裁は、土地所有権者の所有権放棄は「権利濫用にあたるとして許されない」と判示。原審、高裁伴に土地所有権者の請求を棄却した。

 土地所有権については、概ねこういった状況だが、次号では分譲マンション、住宅団地の具体的対応策を追ってみよう(つづく)。

明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員
竹田 智志
2019年11月号掲載