マンションに百年住む (2) なぜ、30年で老朽なのか
なぜ、30年で老朽なのか
30年経ったマンションを誰が老朽と言い始めたのか。このことをはっきりしておいた方が良い。
30年は人間で言えばいよいよこれからという年である。マンションに百年住むとなれば、マンションにとっても30年はまさに壮年期への準備と言える。
最近は、20年代の後半から30年代にかけて玄関廻りのセキュリティを高めたり、バリアフリーをして環境改善をする例が増えている。少しでも長持ちさせるための躯体保全は言うまでもない。にもかかわらず、30年を過ぎたマンションは老朽なのである。
私見では、老朽という言葉が公式に使われ始めたのは平成14年の区分所有法改正の時であったと思う。建替え条項の改定に際して、参議院国土交通委員会調査室が作成した資料に老朽マンションの建替え事例という言葉が見られる。この資料には同潤会アパートを含めた69の建替え事例が挙げられており、この内、昭和30年以降の戦後マンションは60例で、平均寿命は33・3年である。
これらのマンションの建替えは建物の老朽により建替えられたのではない。等価交換によって、無償で建替えられたものばかりである。これを老朽によるとしたのである。この考え方は旧法62条の建替え要件「建物の老朽」に密接に関連している。つまるところ、国は法62条から「建物の老朽」と「費用の過分性」の限定条件を削除し、単純五分の四の法定決議にした。言い換えると、30年を経過したマンションの老朽を自明のものとした。このことをしつかりと記憶しておいてよい。
一部のマスコミがこの尻馬に乗って、30年を過ぎたマンションの危機を煽りたて、老朽という言葉が独り歩きするようになった。この背後には経済効率主義が潜んでいる。住みこなすには中古流通の流動性は重要であるが、経済効率は必要ない。 (萬田 翔)
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2009年6月号掲載)