給排水管改修に備えるための基礎知識 6

9.鋳鉄管神話の崩壊

 排水用鋳鉄管(JIS G 5525)は歴史のある配管材で、耐久性が極めて高く60年程度は使用できると考えられてきました。ただし、これは汚水単独排水系統の排水管の場合という事を忘れてはなりません。

 超高層マンションの建設が増えてきた1980年代中頃から「排水用特殊継手」というものが普及し、そのお陰で高い排水性能を手軽に手にすることができるようになります。その結果、汚水と雑排水とを分ける垣根が消え、屋内合流方式が増えました。そこにも当然のように鋳鉄管が使用されるケースがあり、そのあたりに「鋳鉄管神話」の落とし穴があったように思います。

 写真4は、わずか築30年のマンションにおける排水用鋳鉄管(横引き主管)です。台所からの排水も合流されていたので、高いはずの耐久性を発揮できず、見事に管が割れていました。考えてみれば、そもそも鋳鉄は酸に弱いのです。台所排水が合流する系統に鋳鉄管があったら、年1回の高圧洗浄では足りないぐらいかもしれません。鋳鉄管の表面素地はもともと粗いので、洗浄で取り切れないスケールが堆積し更にそれが腐食を促進させる悪循環により、30年そこらでバクテリア腐食(微生物腐食の一種で硫酸塩還元バクテリアの酸化作用により促進される腐食)で割れてしまうというメカニズムです。

写真4 築30年のマンションにおける排水用鋳鉄管(横引き主管)の亀裂

10.鋳鉄管の立て管更新も始まる

 さらに最近では、排水立て管からの漏水事故も顕著になってきました。全系統に対し標準的に鋳鉄管を多用してきた1980年代竣工の民間マンションにおいて排水鋳鉄管改修が始まってきた事を踏まえると、改修時期の目安は「35年」という数字が見えてきます。(写真5)

写真5 築32年で排水立て管 (鋳鉄管)から漏水事故が発生した時の残骸。酸化した「ねずみ鋳鉄」はかなり脆弱な状態であった

 配管の耐久性能に関する考え方は、時代とともに変わってくるのです。

11.排水管改修は入室工事となる

 排水立て管は共用部分なのですが、専有部分である住戸内に設置されてしまっている事はご理解頂いたかと思います。従って、排水立て管の改修は「全住戸への入室工事」となりますので、賃借人を含む全居住者の理解と協力が欠かせません。ですので、工事の前段階である、計画や設計時における説明会を繰り返し行うなどし、丁寧な合意形成が成功のカギを握ります。

 排水立て管の更新工事の工程は、通常、下階から上階に向かって3~5フロアーを同時施工していきます。10階建てであれば、15階の工事は始まっているが、610階は明日以降の順番となる訳です。しかし、工事中の排水立て管は下層階では無くなっている時がありますから、上層階も排水が流せないことに変わりはありません。つまり、上層階では自宅の工事が無い日でも排水が流せないという日が発生するのです。この時に誤って流されないような周知徹底が重要です。

 工事時間はマンションの規模にもよりますが、午前9時~夕6時が一般的で、1週間程度連日行われます。初日は内装の解体、23日目に配管工事、46日目は内装復旧工事といった感じです。

12.住みながらの入室工事だから居住者用仮設物が必要

 このような工事を「住みながら」行うのが一般的で、仮住まいを管理組合が提供するような事は、通常ありません。

 ですから、居住者専用の仮設物をマンションの敷地内にいろいろ設置していきます。仮設トイレやランドリーの設営は標準的で、その他にも授乳室を備えた騒音からの待避所や談話室をプレハブ小屋で設置する事例もあります。工事前は室内のお片付けが必要になりますので、高経年団地では、高齢者へのお片付け支援が重要になります。

 過酷な工事の乗り越え方を管理組合内部であらかじめ十分に検討し、相応の予算を確保しておく必要があります。

有限会社マンションライフパートナーズ 柳下雅孝

(この連載おわり)

集合住宅管理新聞「アメニティ」2025年3月号掲載