建替え成功管理組合では何が起き、どう解決したか

アトラス調布(旧富士見町住宅)

旭化成不動産レジデンス㈱マンション建替え研究所主催  「第6回高経年マンション再生問題メディア懇談会」より

 6月9日、新宿モノリスビルにて、旭化成不動産レジデンス株式会社マンション建替え研究所は、「第6回高経年マンション再生問題メディア懇談会」を開催した。

 同懇談会は、二部形式で行われ、第一部では同研究所主任研究員の大木祐悟氏が「東京都マンション再生まちづくり制度について」と題し、旧耐震マンションや高経年マンション再生のため、東京都が進める規制緩和についての説明が行われた。
第二部では、マンション建替えに成功した管理組合の代表者に、合意形成の過程で発生した問題やその対応策等について聞く「経験者に聞く『管理組合で何が起きどう解決したか』」が行われた。

 管理組合代表者として参加したのは、宮益坂ビルディングマンション建替組合理事長のウレマンフレッド氏(写真右)、調布富士見町住宅マンション建替組合副理事長の多田陽子氏(写真左)の二人。両氏に大木祐悟氏が質問形式でヒアリングする形で進められた。


ここでは、第二部の様子を要約してお伝えする。

建替えに向かうまで

高経年マンションの問題

 築50年を超える宮益坂ビルディング(以下宮益坂)では、設備の老朽化が著しく、特にエレベーターは故障しても部品が無いため、修理に2か月を要する状況であった。

 調布富士見町住宅(以下調布)でも設備の老朽化が進んでいたほか、エレベーターが無いため、5階に住む高齢者は、外出が困難で居室にこもりがちとなり、建替え前に自治会が開催したお茶会に出席した高齢者の中には「久しぶりに人と話をした」という人もいたという。

建替え前の管理組合の運営状況について

 宮益坂は、区分所有法制定(1962年)前の建物のため、独自の方法で管理組合運営を進め、選挙で役員を選出。総会を開けば7~8割が参加するなど、管理組合の運営は活発だった。

 調布では、2006年に公社の割符償還が終了し、管理組合が立ち上げられた。当時の理事会は大規模修繕を行う方針であったが、建物の老朽化から建替えを望む声も出ており、揉めていた。

建替えか修繕か選択の決め手は?

 宮益坂では、建物に問題が起きればその都度修繕を行ってきたため、長期修繕計画は無かったが、建物の老朽化を前に、「宮益坂ビルを考える会」を今から二十年以上前に立ち上げ。考える会での議論では、「修繕」が俎上に載ることは無く、どう建替えるかを前提に議論が進んだ。

 調布では、「住宅を考える会」を立ち上げ、会が居住者の意見を集約したところ、7割が建替えを望んだことから、「建替え検討員会」を立ち上げた。

合意形成に向けて

情報共有と意見を言いやすい雰囲気づくりが重要

 宮益坂では、議事録の公開等、委員会内での議論や情報を特定の人だけが知ることが無いよう、情報の共有化を進めた。

 調布では、声の大きい人の意見ばかりが集まることのないよう、声を出しにくい人でも、全員が意見を出せるよう努めた。宮益坂でも同様、誰でも声の出せる雰囲気づくりを大切にした。

建替えを進める中で問題になったこと

 宮益坂では、長い間登記が変更されていないため、権利者が特定できない居室も複数あった。そのため、一つ一つ確認し、それでも権利者が特定できない場合は、裁判でその旨を証明する等、権利の確定に時間を要した。

 調布では、当時、70代後半の権利者がほとんど。建替えでは、団地内の合意形成以外に、一団地認定の解除や団地内を通る公道を付け替え、市に移管するなど、時間を要する手続きが多く、高齢権利者からは「早くしてくれ」という声が寄せられていた。建替えは、時間との勝負という側面も非常に強かったという。

宮益坂完成予想パース

(2017年7月号掲載)