61.国交省公表のマンションストック数は正しいか/誰も知らない本当の数
ストック数は着工統計を元に積み上げているのだが、これが果たして正確か否かは甚だしく疑問である。着工したものの途中で工事を中断する場合があるが、それを別の業者が引き継いだ場合に、10年以上経て完成する場合もあるし、未完成のままや、計画戸数を引き下げる場合も生じる。区分所有か否かの戸数は販売や入居募集段階で変更する場合が有るから、さらに統計は不確かになる。滅失統計となると届け出がない場合が多い。戦後の着工戸数から滅失戸数を引き算すると日本国民は1世帯当たり2戸以上の住宅を保有することになるほどだ。以下は着工統計では不正確であることを示す。
(1)着工後入居募集までに用途を変更する場合:(1)賃貸目的から分譲に変更、(2)分譲目的から賃貸目的に変更、(3)個別賃貸目的から一括社宅に変更、(4)計画の変更・中断
(2)入居後に一括して用途を変更する場合:(1)社宅の個別払い下げ、(2)賃貸用途の一部を売却(競売も含む)して全体として区分所有建物化する場合、(3)賃貸住宅又は社宅を一括購入後、リフォームや2戸1改造後に一般に再分譲する場合(写真)、(4)一旦売却した住宅を全て買い戻して1筆所有の賃貸住宅にする場合、但し売れ残りを賃貸として経営している場合に限られる。(1)~(4)の事例は全て群馬県で生じた。
(3)建て売り戸建て分譲を目的に地上げして1筆所有に転換した場合
以上の(1)(2)(3)事例は全て群馬県で生じている。区分所有者による建て替えは群馬県では生じていない。但し建て売り戸建てに転換した事例は1例のみある。半分以上又は2/3以上空き家化した住宅については、将来公的機関による強制収容が必要となろう。短期の公共借家として活用しながら再生、建て替え、滅失を決定できれば良い。
ところで、(1)については開発者の一存で用途変更するが、賃貸・分譲が混在した場合に管理段階で問題が生じる場合が多い。URが住宅都市公団時代に賃貸住宅が不人気状態になると、度々未入居住宅をブロック単位で分譲に切り替えた。ただし地上空間は道路等で明快に区分しても、埋設管は両地域を貫通するなどして、問題を将来に残した。群馬県でも工事途中で資金繰りが悪くなった開発業者が一部住宅を分譲又は賃貸に切り替えた事例は多々あった。問題となった1例は分譲棟へのアクセスが賃貸棟の玄関ホールを通る計画で、さらに分譲棟は公道に面しないため、管理を分離出来ず、将来に渡って運命共同体となった。一般的に所有権の切り替え事例は管理上の欠陥を伴う場合が多く、単なる経済行為として放置できない課題が潜む。
(2)の(1)(2)は管理が混乱する場合が多い。(3)(4)は維持管理体制が刷新される機会となる。(3)を得意とする専門業者は多数存在するが、群馬県内でも2事例を発見した。企業が移転又は倒産すれば、今後も生まれる可能性は高い。(4)の数は群馬県で1例、東京新宿で1例発見した。本格調査すれば大都市圏でもっと発見できるはずだ。ともあれ不完全な統計の裏に隠れた実態把握は今後の住宅管理を考える上で少しは役立つはずだ。(つづく)
(2013年1月号掲載)
(高崎健康福祉大学教授 松本 恭治)