64.分譲マンションの空き家活用は可能か/非木造賃貸住宅、社宅、事業所ビルより低い優先順位

 わが国の人口が減少期に入り、様々な場面でその影響が出始めているが、住宅市場も強く影響を受ける。人口減少は過疎地や地方都市の中心市街地が先行した結果、これら地域に空き家問題を生じさせたが、近年では大都市圏郊外や東京都心部にも問題は波及している(No.59参考)。

 マンション住民にとって気がかりなのは分譲マンションの空き家化である。わが国の指定統計では分譲マンションの空き家数を特定できないが、事例調査では既に多くのマンションで空き家が多数生じている事が確認。半分以上の戸数、又は半分以上のスペースが空き家状態は群馬県では14事例に登ったが、この数字は群馬県の市街地に立地するマンション数の6%に達している。もちろん過半空き家予備軍は多数控えているから倍増するのは時間の問題である。 空き家の原因の一つに管理組合の維持管理努力の不足が上げられるが、最も影響しているのは住宅市場の変化である。新規供給では市場を予測して計画するが、一旦建ててしまうと市場に対しては受身である。中古価格又は家賃を下げて対応せざるを得ないが、売れない、貸せない状況になり、さらに競売でも不調続きになると空き家が急速に蓄積する。 

 課題は空き家対策となるが、区分所有建物の空き家対策は1筆所有の賃貸住宅や社宅よりも難しい。建て替えは地価の高さと余剰容積、自己負担の可能性、転居の肉体的負担など複雑な要素が絡み合う。しかも実現性は極めて僅かである。合意の特別多数決のハードルを下げたところで、自己負担額が減じる訳でないから、実現性が大きく高まる訳でない。容積率引き上げの方が、効果があるが、都市環境の悪化を招く恐れが強いこと、高層化で単身化・匿名化が進みやすいこと、大規模化で建物の更新が困難になることなどの問題点があげられる。目前の問題をクリアしても、将来生じる問題に目が及ばない場合が多い。

 減築については1筆所有の賃貸共同住宅では、住戸を減じても、残った住宅の借家経営で採算が取れれば可能性が見えて来る。群馬県では15年間一度も使われなかった分譲マンションの一画の空き商店群660m2の内560m2を除却した事例がある。住宅群と重層化していなかったため、除却でき、跡地を住民のための駐車場として活用した。既存の共用駐車場の一部を戸建て用地に売却しただけで済み、個々の所有権者の経済的負担を伴わなかった。一般に共同住宅の減築は区分所有建物では困難。散在する空き家を買い取るだけでも大変だが、買い取った後、除却対象住宅と交換しなければならない。さらに減築工事費がかかる。これら費用を受益に応じて負担配分し納得を得るのは至難の業となる。そもそも空き家だらけの住宅では所有権者の経済状況は余裕がなく、減築工事後に中古価格がかけた費用以上に上がる保証もない。構造計算の偽装で強度不足が露見した姉歯事件の時には解決策として、建て替え、構造補強、減築があったが、減築は検討課題にもならなかった。

 近年、ある団体から分譲マンション空き家対策に関連して減築が政策提言されたが、採用されても実効性はない。敢えて反対するまでもないが、むしろチェック機能がない無関心な団体・住民の将来が不安だ。(つづく)

(2013年4月号掲載)
(高崎健康福祉大学教授 松本 恭治)