66.中小商業区域の住宅空き家化/市街地の安定こそ福祉のまちづくりの基礎だが
図は都道府県別非木造共同住宅空き家率別の中心商業区域の住宅空き家率である。県全体の非木造共同住宅の空き家率が高いほど中心商業区域の空き家率も高くなる。中心商業区域では戸建住宅が年々減少し非木造共同住宅が一般化している。非木造共同住宅比率が最も高いのは東京都であるが、非木造共同住宅比率が小さい地方都市で、同住宅の空き家率が高い。しかしながら地方都市でも中心商業区域は周辺の住宅地区よりはるかに非木造共同住宅比率が高くなるから、県全体の非木造共同住宅の空き家率を反映しやすい。
ところで非木造共同住宅は、元々小規模住宅で、戸建て住宅を取得する前の途中下車である場合が多く、居住者の移転が激しい。人口減少すれば空き家化しやすい。戸建ての空き家は撤去され更地で市場取引されやすいのに比べ、共同住宅は最後の一人が退去するまで撤去出来ない。撤去するまでの長い間空き家を多数抱え込むことになる。大規模戸数ほど、高層住宅ほど、更新は困難になる。空き家が多い地域では賃貸共同住宅の建て替えは経済的リスクが高い。地価の安い地方都市では分譲マンションの建て替えは殆ど不可能だ。中心商業区域の業務空間拡大と人口増加がある間は、これらの建物も中古で流通しやすいが、車社会化による店舗の閉鎖、郊外への業務地と人口の拡散、他県への転出超過が強まるほど、空きビル、空き店舗、空き家が蓄積する。
空洞化する中心商業区域は住民の高齢化が激しい。平成22年の国勢調査結果の再集計では、人口20万人以上の都市の中心商業区域居住世帯の世帯主年齢で60歳以上の割合は第1位が福井市で57・8%、次いで群馬県伊勢崎市57・4%、山口県下関市56・1%、新潟県上越市56・1%である。市全体での60歳以上世帯主の割合は、それぞれ47・3%、39・8%、52・0%、49・2%だから、若者が郊外地を選択しやすい事を示す。伊勢崎市の60歳以上割合39・8%は、埼玉県所沢市全体の39・4%、横浜市37・4%、千葉市41・0%と大きく変わらない。なお、これら3市の中心商業区域の同割合は、27・2%、26・6%、25・7%で市の平均を大きく下回る。伊勢崎市は車社会化によって中心商業区域に高齢者世帯が強く取り残されたと解釈して良い。世帯主年齢だけで見れば、震災等の大災害に対して、要支援世帯が多いことを意味する。20万人未満都市なら、中心商業区域の高空き家化都市、超高齢化都市を多数発見できると推測するが、残念ながら国勢調査結果の公表データがなく再集計できない。
概して大都市圏内の都市では郊外都市でも中心商業区域には若者が集中し、市の周辺部には高齢世帯が多くなる。東京大都市圏では常に地方県から若者を補填し、市全体の世帯主年齢を引き下げて来た。では今後も安心かと言えばそうでもない。都心回帰傾向で郊外住宅地の地価は今後も長期にわたって下がり続けるであろうし、大都市圏には低水準住宅が多く、特にバス便の高経年低水準共同住宅では既に空き家化が始まっている。大都市圏中心部と最寄駅は地方都市に比べて吸引力が強いから、住宅・住宅地は今後選別強化される恐れが強い。都市の安定こそが福祉の基盤のはずだが、安定を図る社会政策はない。(つづく)
(2013年6月号掲載)
(高崎健康福祉大学教授 松本 恭治)