69.超高層住宅のホットスポット/まりづくりか、まち壊しか

 東京大都市圏は近年超高層住宅の建設ラッシュである。元の敷地は工場跡地、鉄道操車場跡地。港湾倉庫跡地、中心商業地区が多いが、大規模敷地になると、超高層住宅も群を成すから、言わば大量供給のホットスポットを形成する。千代田区、中央区、港区、江東区等の都心区に加え、川崎市小杉地区、横浜市みなとみらい地区、相模原市橋本地区、大宮市鉄道操車場跡地、川口市の鋳物工場跡地、所沢駅周辺地区などが代表的地域である。1・2棟程度なら、枚挙にいとまがない。中心商業地区の場合は単棟型の市街地再開発事業となり易いから、事務所・店舗・ホテル等と複合型の超高層計画になり易い。

 工場跡地がマンション用地として大量に供給された理由は、産業のグローバル化で工場の海外移転の傾向が強まったことによるが、これだけなら、超高層マンションの建設ラッシュにならない。容積率緩和が強力な後押しとなった。工場、鉄道操車場、港湾倉庫等跡地は敷地が大規模なほど周辺住民からの建設反対運動が起きにくいはずであった。ところが既成市街地に接する部分では、日照被害、電波障害、工事車両の頻繁な通行で直接的な被害を与えやすい。さらに地価の値上がりは周辺地域に及ぶから、都市計画決定地区以外も建設活動でざわつく。

 市民による超高層建設反対運動が各地で生じているが、行政がそれらに耳を貸す姿勢は全くない。都市計画決定前は情報統制し、決定後は耳を貸す振りをするものの決して変更しない。理由はマンション建設への賛否が立場によって大きく異なるためである。周辺の店舗経営者から見れば、地域内に競合店舗が計画されるのを警戒するものの、客が増える可能性に期待する。

 行政から見れば、戸当たり敷地面積を切り詰めた超高密度集合住宅が完成すれば、多額の固定資産税、市民税、計画次第では法人税等の収入を長期にわたって期待できる。超高層住宅は戸建て住宅と比べて5~7倍くらい戸数を積み上げる。戸当たり土地持ち分は10~20m2まで圧縮できる。容積緩和は濡れ手に粟だから事業化に不安がない。道路・公園を行政に移管したとしても、各マンションの敷地内は管理組合が管理するから、行政負担の保守点検費用は意外とかからない。民活と言えば、耳触りが良いが、実は開発業者と行政の二人三脚と見て良い。天下りも成立する。この関係に地域住民は入れない。

 さて、かくのごとき超高層のホットスポットと数棟単位の超高層住宅の地域拡散で懸念される問題は第1に大衆化路線である。立地によっては超高層住宅が地域の平均床面積以下になることも多い。つまり都心からの購入者には魅力があっても、中古段階では地元民から見れば魅力物件にならない。中古価格が低下すれば、高い管理費を維持するのが困難になる。第2は高密度住宅が一般化すれば、人口減少社会では郊外遠隔地の住宅を不要にし、空き家を増す。どの超高層住宅がどの住宅を空き家化させたかを直接的に確認出来ないが、統計的に集団の因果関係を推測可能である。既に勝ち組地域と負け組地域に分解しつつある状況だ。第3は同時大量建設は社会的歪みを内包するからいずれそれらが顕在化することは従来の経験で予想できる。だが同時建設した場合は修正する機会が乏しい。(つづく)

所沢市に林立する超高層。2階建て木造店舗の街並み中に次々高層・超高層住宅が割り込んだ。裏に戸建て住宅が接する。既存の木造店舗は閉鎖が多く、マンションと共存できない。 地元NPO団体が蔵の街づくり運動を展開したが、次々マンション用地に買収され運動を断念した。

(2013年9月号掲載)
(松本 恭治)