80.平常時のマンション管理組合解散について/民間市場一任の危うさとザル法化予測の奇妙な安心感と不安感

 耐震診断件数は多いが耐震補強工事に進む割合はほんの僅かである。最も助成金額が多く熱心な東京区部でも施工件数はJASO元副会長三木哲氏によれば診断件数の5%程度に過ぎない。

 助成金額は自治体差が大きく、助成額が少ない地域では大都市でも診断・施工件数は極めて限られる。合意が得られない事情は、お金の準備が出来ない、管理組合が十分機能していない、建物の関係書類が散逸している、店舗などの休業補償が請求される場合など様々である。危険と判定されながら、補強工事を諦めたマンションのその後は殆どが放置状態になる。新たな行動は次の大震災待ちである。

 診断結果は中古取引の際の重要説明事項になるはずだが、無視した場合に将来トラブルが発生する恐れがある。説明したら中古の取引条件が悪化する。これでは目標の90%達成に程遠い。診断・工事見送りマンションに対して行政は強い措置を取らない。

 そこで、国は耐震診断の結果を受けて補強工事も、建て替えも選択できない管理組合に解散と共有地の民間企業への一括売却を提示するが、管理組合にとっては補強工事以上に難しい選択だ。先の東日本大震災では仙台市の6マンションが大破した結果、行政の緊急支援を受けて取り壊された。壊した後に表面化したのが抵当権で、売却までに抹消しないと土地の買い取り手が現れにくい。勿論地価評価額が高いほど、売却も進めやすいが、土地の評価額は持ち主の期待ほどには上がらない。持ち主たちは周辺戸建ての土地取引価格を参考にするが、戸建て敷地は道路分を差し引いた面積になる。さらに杭の引き抜き、整地費用を考慮すると、マンションの敷地m2単価は周辺の半分にしかならない場合が多い。平常時の解散では建物取り壊し代は支援されない。

 借家人への立ち退き補償費+各種の負債返済は区分所有者個人が対応しなければならないが、一般的に高経年マンションは低価格化し、低所得者・高齢の病弱者が蓄積している。売却で得たわずかな資金では次の住宅の手当てが困難な場合が多い。不在家主の中には連絡がつかない場合さえある。

 低価格中古物件ほど管理費・修繕積立金、固定資産税の滞納が多く、併設の非住宅施設では滞納額が数億円に達する場合も少なくない。競売不調物件、税務署による物納拒否物件も蓄積する。管理組合の預貯金を所有権者に分配できても、管理組合自身が持つ巨額な債権を放棄するのは困難だ。

総会開催・名簿確定すら出来ず自治能力を失ったマンションにこれほど重大な決定を委ねても、無期限の下で果たして動けるか疑問だ。

 国は解散を促進するために容積率緩和措置を行うようだが、高経年マンションの実容積率は既に法定以上が多い。さらに安易な緩和は麻薬常習と同じだ。買収後の土地用途は業者の自由だから、利益追求による地上げも起きかねない。新型の〝不良住宅〟解消を市場に委ねるだけでは可能性は薄いし、弊害も大きい。買収交渉に乗る業者は人口減少下では選別を強化する。可能性がある立地は限定される。

 問題は複雑・多岐で深刻だ。総力戦を必要としながら、行政連携は不明だ。解散の先が読めなければ、解散できない。空振り・選別も政策のうちだろうか。(つづく)

(2014年8月号掲載)
(松本 恭治)