97.平均住宅規模を大きく下回る地方の持家共同住宅の運命/単身者と空き家を濃縮する

 持家戸建て住宅の面積の地域差は人口密度のほか地域の気候条件が大きい。九州・四国の温暖地域の戸建ては物置、仕事場、家畜飼育場、高齢世帯の離れ部屋が分散するに対して、積雪地帯ではそれらは一つの屋根の下に集められて居た伝統があった。

 ところが持家共同、民営借家の住宅規模は全国的に地域差が小さい。その理由は多くが都市部に立地すること、地域の伝統に縛られないこと、さらに戸建てが根強い人気を保つが、個人的に増改築や建て替えをしやすいこと、建物価値が無くなっても土地が経年減価しないで残ること、大都市に比べて広い敷地取得が容易なことが上げられる。
民営借家は一時居住者や預貯金が乏しい若年層にとって必要だが、建築自由の世界で持家共同住宅の魅力を上げることは至難の業だ。多くの県民は持家共同住宅をスルーして取得容易な戸建てに行きつく。これらは民営借家や持家共同住宅の住宅規模が戸建て住宅の規模に連動しない主な理由である。

 ところで、東京都の場合は持家共同住宅は地域全体の平均水準に近く、一方戸建ての規模最大の富山県では戸建てと持家共同住宅の規模格差は大きい。

 この規模格差が持家共同住宅と民営借家住宅の市場の不安定性を生む原因となりやすい。住宅不足の場合、中古価格や家賃の高騰を生みだすことがあるが、一方過剰になれば持家共同住宅では中古価格の下落や世帯規模の縮小・単身化、低所得化、空き家化を進行させる。

 民営借家の場合は元々単身など小規模世帯の入居を標的にした計画が多いから、単身化はこれ以上劇的に進まない、むしろ空き家化が大きな課題になっている。

 過不足を生む原因は多々あるが、今後は住宅取得年齢層の人口減少が長期的に続くと予想され、住宅過剰の大きな懸念要素となっている。人口減少は若年が先行し、中年、高齢層と年齢移動する。若年人口が減少しても、一部地域では全人口が増加する場合もあるが、期間は限られ、多くの地域はいずれ全人口の減少に向かう。世帯分離による世帯増が空き家化の多少の歯止めになるが、人口減少が加速されれば、その効果も失う。

 新規供給の販売・賃貸用住宅はストックとの競合を避けてより今後差別化が図られるが、その場合平均を大きく下回る水準のストック住宅はさらに不人気化しやすい。

 北陸、東北では住宅の平均規模が大きいから、持家共同住宅は供給当初から県内では低水準住宅である。2013年の住宅土地統計調査結果では秋田県の持家共同住宅の単身世帯率は全国最高の54%に達するが、借家化+空き家化した住宅数を考慮すれば、持家共同住宅の家族世帯率が全分譲マンション世帯の2割以下となっても不思議でない。管理機能が弱体化すれば、老朽化・スラム化に突き進む懸念はより強まる。

 問題は不良化した住宅の最終処理を図る社会的効果的仕組みが殆ど無いことだ。ばば抜きゲームが始まりつつあるが、結局経済弱者が背負うことになりそうだ。

 なお東京都の持家共同住宅の水準は狭いながらも都内の平均水準である。市区町村別に見れば格差の地域的偏りが生じて居るのは言うまでもない。(つづく)