109.世帯主の高齢単身化は何をもたらすか/住宅短命化の構造
高齢化は年金福祉や医療介護、経済等の日本の将来を左右する大きな課題だが、ここでは、住まい方改革をしなければあらゆる住宅が短期間に消耗する道をたどる危険性があることを指摘したい。高齢化のスピードは住宅種類で大きな違いを見せる。最も高齢化が進んでいるのが公営住宅と持ち家とUR公社で世帯主年齢は61.3歳、61.2歳、59.4歳だから、世帯の約半数が現役を退きつつあり、世帯収入は減じ始めている。木造の民営借家、非木造の民営借家居住世帯は50.1歳、42.6歳である。年功序列賃金体系が崩れ、収入の2極分解が進んだことに加えて晩婚、未婚者が増えているから、新築の持ち家取得に足踏みする者が増えている。
単身者になると、持ち家、UR公社。公営住宅では2人以上世帯を含む各住宅の平均世帯主年齢をはるかに上回る。各々6.8歳、4.1歳、7.7歳上回る。単身女性は世帯計より持ち家では10.1歳、公営で9.3歳、UR公社で7.7歳上回る。配偶者が亡くなった後に一人暮らしになりやすいのだから高齢になって当然である。1998年から2013年迄の15年間に全住宅の世帯主平均年齢は5.5歳上昇し、単身では8.5歳上昇したから、今後もしばらくは上昇すると予想される。住宅移動は世帯主年齢44歳以下が主流だから。
ところで、高齢化するほど低所得化する一方、広い住宅に住み、住宅の維持管理が経済的、肉体的に苦痛になる人が増える。古い住宅ほど室内に段差が有ったり、廊下は車いすが使えない幅の住宅が多い。東北、北陸の積雪地域では屋根の雪かきが重労働で危険が伴う場合が少なくない。一人しかいなければ、冬は1室暖房で、廊下や風呂場は冷蔵庫の中にいるほど寒い場合が増える。
高齢者になると誰でも車の運転が危険になり、免許証返上も増えるが、一方地方都市では返上したら、通院・買い物が不便になる。車社会では危険を承知で運転を続けざるを得ない。にもかかわらず住み続ける理由は家族と一緒に過ごした住まいへの愛着と、巣立った子供たちの故郷を守りたい気持ちである。住まい方改革を考える上では最も悩ましい部分だ。
分譲集合住宅では役員のなり手が少なくなるだけでなく、修繕積立金等の値上げが困難化する。駐車場の空きスペースが増え、管理組合の収入が減り、機械式の場合は更新できない事態になりやすい。錆びだらけで使えない機械式駐車場では、住宅の中古の買い手や借り手もいなくなる。超高齢単身者が増えると、病気入院を契機に突然空き家が出現する。行先は子供の家やその近く、または老人ホームなどだが、「売らない、貸さない」住宅が多く、家財道具の保管庫に化ける。戸建ての場合は家、庭も荒廃しやすく、防犯、防火、防虫などで近隣に不安を与えやすい。少子化世代は世帯数そのものを減少させるから、「売れない、貸せない」低水準住宅を空き家化するが、高齢単身者が発生させる空き家は持ち家が多く、住宅規模は平均以上が多い。持ち主が亡くなった後の相続者は既に自分の持ち家を持つ場合が多く、売却された後に住宅は取り壊されやすい。
4人家族が狭い住宅に住み、単身高齢者が広い家に住み、その住宅を消耗させる姿は、まさに資源の無駄遣いでもあろう。(つづく)
(2017年3月号掲載)