116.不動産仲介業者による管理不全マンションの再生―管理組合で多数派を占める
2006年高崎市で調査。高崎駅から徒歩5分以内。2棟(7階、8階)住宅48区画、店舗用3区画)2台分の車庫、1980年築。当時の中古価格は50㎡で700万円、44・6~59・0㎡だから、かろうじて家族向けだ。管理組合理事長にヒヤリングしてびっくりした。決算報告が読めない、かけないのだ。管理体制を聞いてもえらく要領が悪かった。長年棟内店舗で営業している中年の借家人の方が管理事情を熟知していた。長く修繕積立金をためている割に修繕を実施していないこと、印鑑と通帳を管理会社が預かっていることが判明した。東京の管理会社で見回りには滅多に来ない。あとで判明したが管理会社所有住戸数は22戸で、倒産した分譲会社の売れ残りを引き継いだものの、売却できなかったらしい。所有権については謎が多い、最初の理事長は管理会社から頼まれて就任し、後は持ち回りと言うが、持ち主が急速に減る中で、役員選任は形式化したようだ。
「すぐ預金通帳と印鑑を取り戻した方が良い」と理事長に注意したが、そのまま2年経過した。役員が管理会社と交渉するのは無理だったようだ。その状態が続く中で、突然管理会社が倒産し、預けたお金を持ち逃げした。何人かの所有権者を尋ねると、皆おろおろして、何も手がつかない状態であった。2年前の元理事長に会うことができた。「高齢者だけでは対処不可能だから、弁護士に相談しなさい。信頼できる弁護士を紹介しますよ」と助言したものの、「自分はもはやその役ではない。何か言えば後が怖い。自分は管理組合の被害者だ」と主張する始末。居住世帯20戸、居住持ち主は15戸以下だ。住宅の空き家数は28戸、これに空き店舗2区画分が加わる。中年の女性借家人が「ここは限界集落。全て管理会社任せだから管理費等の滞納額の実態さえ分からないのではないか。自分は転居するから、気楽だけどね」と言っていた。
ちなみに屋上では、落下防止柵が破損しているものの子どもの屋上への出入りが自由で危険、給水タンクに上る鉄骨階段は腐食が進行し危険、外壁タイル落下、非常階段の床鉄板は腐食し階段使用禁止の張り紙があった。ただしエレベーター管理と日常清掃は行っていた。間もなくゴーストマンション出現かと多くの住民が懸念したが、その後意外な展開があった。新たな管理委託先が決まり、2009年に22戸が競売に付され、戸当たり平均21万円で地元不動産仲介業者が落札した。低価格で落札した理由は、市場価値を他の区分所有者と共同して上げる考えの業者が少なかったことによる。
44㎡住宅で月に管理費7300円、修繕積立金4880円を徴収していたから、そこそこの再生の可能性はあった。当初は通路の段差解消、郵便ボックスの新調など小さな改善に努めたが2年経過した2011年には初めての大規模修繕と大改善に挑んだ。落札者は落札住戸の商品価値を上げるのが目的だが、従前からの持ち主にとっては持ち逃げされた積立金は未回収だから、新たな負担は厳しかったに違いない。ともあれテナントが埋まり、建物設備の延命が成功し、強力な管理組合メンバーが加わったのだから、高齢者達は一安心だ。だが、当仲介業者が常に高齢持ち主の後ろ立てでいる保証はない。撤退したら終わりだ。(つづく)
(2017年10月号掲載)