121.東京都多摩市の再生可能かー不安の構造
多摩ニュータウンは多摩市と八王子市にまたがる大規模開発で、鉄道・幹線道路敷設と一体で計画された。これらも長期経過するにつれて再生が課題になったが、他の都市の個別の団地再生と異なり、多摩市は域内全ての住宅を含むエリアマネージメントを追及している。聞きなれない言葉だが、域内のあらゆる住宅を対象として再生を図るのは未知の取り組みと言って良い。それだけに期待感がある一方で、事業の進め方への不安感も多い。T氏(多摩市のNPO活動家、他)談では、「多摩ニュータウンの団地は駅から徒歩も多く、中古の取引も盛ん。開発が昭和50年ころからで、町田市より遅いこと。住宅規模も大きい。多摩市そのものがコンパクト。たまたま多摩ニュータウンにはUR所有の空き地が多い」と言う。住宅規模、種類が豊富だから、うまく組み合わせれば、子育て世代の導入、地域内住み替えの促進など可能性が高い。事実、市の答申はこれらを強調している。多摩市内居住の大学の研究者達までが多摩市に来る人は子育て世代ばかりだと強調している。
一見夢は持てそうだが具体性はない。みんなが楽観している時こそ視点を変えてみるのが重要だ。住宅種類が豊富でも、公団公社公営賃貸住宅の居住者は高齢者ばかりで若者は入れない。建て替えを行う場合は建て替え資金を捻出するため土地を民間へ切り売りをする状況だから、老朽分譲マンションの再生に寄与しにくい。
大規模住宅が多いから安心と言うのも怪しい。住宅規模が大きい場合は世帯主の入居時年齢は小規模住宅に比べてやや高い。子供の世帯分離は速い上、世帯主の定年退職も速い。終着駅としての大規模住宅は高齢単身化もしやすい。外部からの入居は子育て世代の占める割合が高いものの、築年数が大きい住宅ほど転入世帯数が激減する傾向にあるから、団地の居住世帯全体の若返りには寄与しにくい。
つまりどの数字を選ぶかで誤解が生じやすい。図は時期別年齢別人口構成変化だが、以下の傾向が見える。人口のピークは3つあり、一つは18-25歳までの学生グループで、一時滞在だから年齢が移動しない。多摩市と八王子市の共通現象だ。二つ目、三つ目は団塊ジュニアと団塊世代で、それぞれのピークは5年で5歳上昇する。団塊世代ピークは2015年には定年退職年齢に達したから、今後多摩市の高齢者問題はさらに拡大しよう。一方20-40歳年齢は激減している。子供の世帯分離による域外転出量が域外からの転入量を大きく上回るためだ。これには都心回帰の影響も加わっている。団塊ジュニア以降の少子世代が加齢するに従って、減少域は横にも縦にも拡大することが予想される。2015年の団塊ジュニアのピークが45歳に達したから、以降、少子化世代に引き継がれる。
エリアマネージメントの目玉である地域内住み替え数は今後減少する。2015-2035年の30歳代の人口減少率予測では多摩市が多摩地域全市部の中で最も大きく、4割弱に達する。これでは現状の再生計画は絵に描いた餅だ。首都圏の2016-2017年の住宅地価の変動率は東京都の10万人以上都市の中では多摩市は下から2位である。商業地の場合は最下位だ。統計でみる限り多摩市が楽観できる状況はない。 (つづく)
(2018年3月号掲載)