4.分譲マンションにおける用途複合の危険性
多摩ニュータウンの近隣商店街では閉鎖店舗が軒をならべ、地域の衰退を象徴する。大型店舗が幹線道路沿いに建ち、品数が多く、安い。居住者の自動車保有率が上がったから、自動車でまとめ買いするには多少自宅から遠くてもパーキング施設が整った大型店舗の方が魅力的だ。近隣商店街の建物の2階以上は住宅だが、幸い公共賃貸住宅だから、商店からの家賃収入がなくても大規模修繕を実行できる。ところが街路沿いの1棟型分譲マンションの場合は店舗事務所が併設される場合が多い。幹線道路沿いや商店街に面する土地で、元の地主が等価交換方式でマンションを建てたら、通常利益の最大化を狙って足元に店舗や事務所を併設する場合が少なくない。
大都市圏では店舗が経営破綻した場合は、店主の速やかな選手交代が可能だから、空き店舗で組合運営が行き詰ることが少ない。多くのマンションでは各区画を誰かが使用している状態を当たり前のこととしている。ところが地方都市ではその当たり前が珍しい。群馬県を例に取ると、中心街は空洞化しているからいわゆるシャッター街はそこかしこに存在する。商店街のならびにあるマンションの足元店舗だけが生き延びる秘策はない。店舗つきマンションの3/4で空き店舗を抱えている。併設の10店舗全てが空きと言う事例さえある。これに2階以上の併設オフィスの空きが加わると、管理組合の活動は事実上お手上げだ。不幸なことに群馬県では非住宅部分を競売しても落札する者が殆ど出ない。 平成12年9月から17年9月まで裁判所が予告公告した物件は再掲を除けば244件、その時点の分譲ストックの2・4%だが、内、非住宅施設の件数の落札率は予告非住宅総数の9・5%だが、予告非住宅総面積では1・7%でしかない。住宅の場合は件数で56・8%、面積で57・2%が落札した。
いずれも競売不調率が多いものの非居住施設の低落札率は要注意で、問題が問題をさらに呼ぶ結果となっている。競売以外で所有権移転が行われる場合もあるが、多くの場合、長期の塩漬け状態が持続する。管理費や修繕積立金の未納額が膨張する。競売不調を繰り返すたびに最低予告価格が下げられる。ところが下がるほど競売不調になるのだから始末が悪い。
それでも昨年は高崎駅から徒歩5分の繁華街中心にある10階建てマンションの併設のホテル(3~5階)築34年、56室、1、500㎡が総額1000万円で落札した。前橋市の中心街にある10階建てマンションは築32年で住宅40戸、事務所店舗が18区画あるが、ここで競売不調となった部分の合計面積は2、464㎡で、およそ建物の半分に近い。もちろん両者とも大規模修繕の経験がない。住民と接触を試みたが、表札は殆どないし、電気メーターが動いている家が少ない。住宅では一戸5万円の競売予告も出たが、50万円で落札した。不思議なことにエレベーターは動いている。今後大都市郊外で、車社会と人口減少がさらに進めば、店舗の経営破綻が管理組合の弱体化・崩壊の契機とならない保証はない。ご用心。(つづく)
(2008年4月号掲載)
(高崎健康福祉大学教授 松本 恭治)