17.狭さからの脱出Ⅱ
増築を行うための制度的困難性に触れる前に、増築を行う住民側の困難にはどのようなものがあるだろうか。割賦制度を活用した場合の抵当権設定による登記等の変更手続と、それに伴う個人情報の露呈という指摘があった。
ではソフト面からすると、第一点目としての限界は、居住者の入替えが円滑に進まないことがあげられる。規約の改正は行い得ても、どうしても増築希望者の多い住棟から実現しようとすれば非参加者への説得に時間がかかり時期を逸する可能性があるということ。
当時の各団地型マンションの建替え検討過程を追ってみると、以前建替え推進の最大の目標値は狭小からの脱出であった。ところがそれはここに来て、設備水準等の向上を求める傾向に変化しつつある。増築は家族の成長にあわせた居室空間への要求と見られ、機会を同一にした居住者が多数を占めなくてはならない。
第二点目は、立地条件によっては住棟により居室増築が不可能なケースがあるということであり、公平の原則に反するということだ。例えば、ある住宅団地は、起伏に富んだ丘陵地に立地し南面の敷地に余裕がない場合や住棟そのものの形状が星型である場合には、既存の増築プランを適用できず公平を欠いてしまうというものである。
さらに第三点目は、既存の住棟が建築後20年から30年を経過する中で、増築棟のみが新築ではメンテナンスの面でアンバランスが生じ管理しにくい。水回り等の住宅の機能面は、すべて既存棟に集中し将来的なメンテナンスが継続的に行われなければならないのに、増築棟はそうはならないといったものである。
最後に、居室のみの増築ではあまりにバリエーションに欠けてしまって、ストック改善事業としては、どうしても魅力に欠けるというものであった。
制度面について覗いてみよう。建築基準法関連では、住宅団地型のマンションは、建築基準法86条による総合的設計による一団地の建築物の取扱いを受けているものが多い。増築にあたっては、その変更が必要で同法上最大の難関となる。この場合、ある住宅団地では、日影制限、日照時間基準をどう当該自治体が判断するかといった点が浮上する。続いて都市計画法との関連について見てみると、増築しようとする住宅団地型のマンションが「一団地の住宅施設」として都市計画決定されていると、増築が都市計画の変更とみなされた場合、変更手続には大変な時間を費やしてしまうことになる。
なお、もう一点踏まえなければならないのは、各自治体における「宅地開発要綱」での取扱いである。増築するに当たって、当該増築住棟の南側前面にあたる住棟の承認を取り付けることで許可するか、またはそれに両サイドの住棟を加えたものにするかでは、いわゆる付随的コンセンサスという面で状況が一変することになる。こうなると、たとえ増築に向け一住棟の全員合意が調ったにせよ、関連住棟の承認が付加されてくる訳であるから南側前面に当たる1住棟40戸の承認に留まるか、3住棟120戸の承認を得られるかが焦点で、正に雲泥の差が生じる。住宅団地の立地する自治体によって、増築実現に向けた時間的格差が顕わな形で登場してくるのである。(つづく)
明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員
竹田 智志
2019年9月号掲載