18.狭さからの脱出Ⅲ
まず、増築制度は団地全体を統括する規約の改正で、全区分所有者、議決権の四分の三以上の承認を求め、1棟全員の合意を必要とし実現するわけである。建替えは、敷地利用権を共有する区分所有者の集会において四分の三以上の承認を得ること、受忍限度上の承認を得て実現できる想定である。その際1住棟の合意は、区分所有法62条の建替え決議に照らし組合員、議決権とも五分の四以上の承認によって可能だとすると、コンセンサス面の緩和は増築よりはるかに緩い。
増築を実施する場合の管理組合が行うべき手続的な合意のプロセスについては先述の通りである。筆者は増改築禁止の管理規約条項の改正を取上げ、区分所有法31条との関連から説明したに留まるが、区分所有法におけるところの増築との関係はこれだけかというと、丸山英氣千葉大名誉教授は、これに加え増築者の専有面積が増加するのは当然だが、敷地の利用量も増加するので非増築者との間の関係をどう処理するかが問題になることを指摘する。さらには共有空間の在り方の決定と建物の共用部分の改変があることを早々に予測していた形跡が窺える。
まず、敷地の利用量の増加という点については、区分所有法第14条「共用部分の持分割合」、21条「共用部分に関する規定の準用」によって、専有部分の大きさの変化が即持分に影響するとした持分変更説と、持分の大きさはそのままにして利用量が増加したと考え利用に見合う対価を支払うことで解決する対価変更説があるとするのである。増築を行った団地の例からすると管理費等の値上げで対処しており、後者の対価変更説に近い形を採用していると見られる。では、共有地表上空の共有空間のあり方の決定とそれに接続する建物の共用部分(南側ベランダ部分の一部撤去等)の改変の許容はどうか。30年程前までの増築制度をめぐる住民総会での現地調査からすると、①持分割合に変更を及ぼさない、管理費等の負担割合の変更、②建築協定の変更、③居室増築制度の創設、④居室増築制度を設けるにあたっての組合員の合意という形で賛否を問い、①②が特別決議、③④が普通決議であり、議案として可否を住民に諮るケースは見当たらなかった。
ただ、従来型の増築であれば構わないと思うが、今後に向けたいわゆる団地再生型の更新事業にあっては、持分権の変更を前提とした対応が必要であり、いわゆる団地経営という立場を構築するとすれば、建替えも、増築も、既存のゾーンをも設けていくにあたっては、持分権の再分配もふくまれるだろうことは予測できるのであり、当然のことながら各ゾーンによっては、維持・管理コストも大きく変動してこよう。再生に向けた更新がスタートした段階で一定時期を定め持分権の変更を行う必要が生じてくるのではなかろうか。
団地族と呼ばれた、憧れの的であった人々の暮らしは、ジャーナリストで住宅評論家の塩田丸男氏の「住めば団地」(弘文堂1963)が往時を活きいきと表現している。だが、その約10年後に出版された「住まいの戦後史」(サイマル出版会1975)では、住宅と人間の悲しい抗争、団地族のスラム化等鋭い視線で批判的な展開が見られた。筆者としては、ただ単純に『狭さからの脱出』と、それに対応しようとする動きを描いたにすぎないが、60年代から80年代の団地と呼ばれる住宅群が抱える課題のバックボーンは、実に凄しい。(つづく)
明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員
竹田 智志
2019年10月号掲載