9.呼び名のルーツ

明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員:竹田智志

 読者の皆さま、新年明けましておめでとうございます。本年もご愛読の程、どうぞ宜しく。2019年がいよいよスタートし、今年も素晴らしい年になるよう心掛けて参ります。さて今回は趣を一変させマンションという呼び名のルーツ、変遷に着目しました。

 我々が普段、何気に使う「マンション」という言葉は、英語では実はmansion。これはなんと、“大邸宅”を意味するのだとか。一住戸というよりは建物全体を捉えているのだろう。でも、この名称はすっかり定着し鉄筋コンクリート造りの集合住宅は皆「マンション」と呼ばれているのが現実だ。そもそも60年代の後半ごろから普及し始めたとされている。

 東京大学の大月敏雄教授は、この辺の所がもっと詳細で、近著「四谷コーポラス」(鹿島出版会)の中で、こう表現する。「2000年頃まではマンションと云えば当然、分譲された集合住宅を意味していたが、2000年頃から、TVニュースなどで賃貸集合住宅でもRC造りのようなものであれば普通に、マンションと呼ばれるようになってきた。それまでは、木造であろうがRC造りであろうが、賃貸の集合住宅は一般にアパートと呼ばれていたのだが」と指摘する。

 筆者からすると、全国規模で640万戸を上回るとされるマンションのうち、真に大邸宅と呼ばれて似つかわしいのはどのくらいあるのだろうか。実は想像すら出来ずじまい。「住めば都」とは云うから、本当に大邸宅かどうかは別として、名称はこれを使用しようというものなのだろうか。すると、現実と呼び名は相当にかけ離れているという事実だけが目前に迫ってくる。

 個人的には、マンションという名称よりはアパートメント(apartment)という言葉が馴染むような気がするし、分譲マンションは、アパートメント オーナーシップが妥当するかとも思うのだけれど、これは少し法律をかじってしまった職業病かも知れない。

 ところで、UR(日本住宅公団)は、賃貸住宅を「○○団地」と呼称し、分譲を「○○住宅」としたのは58年。でもその後、郵便の住所には反映しないにもかかわらず、分譲も賃貸も長い長いカタカナの名称が入居時のパンフレットでは列挙される。だけれども、第三者がこの建物群を表現するときには、『地域・地区名+マンション』というよりは『○○団地』と親しみを込めて、そう呼ぶ。

これぞ中層住宅団地の傑作

 

そもそもマンションという建物のネーミングは当初、アパートは勿論、○○コープとか、○○レジデンス、シャトー○○、○○コーポラス、ハイタウン○○、○○パークハウス、○○ビレッジ等々多種多彩な名称で呼ばれていた。

 海外に目を向けてみると、一般に日本で云うマンションを、コモンホールド、リースホールド(英)、コンドミニアム(米)、フラット(濠)等々と呼び、一般には、『地域・地区名+コモンホールド』等と表現され、バラエティに富んだものと想像する。ただ、こんな表現もある。かのドイツでは、マンション=大邸宅を“争いの家”、“闘争の家”という。

 とはいえ、この表現は、ある意味で共同・共有住宅の一側面を端的に捉えている。マンションと呼ばれる大邸宅も一皮むけば争いだらけ…。渡る世間は…では、ちょっと悲し過ぎるか。いやいや、これらをも包含する快適なマネジメントこそ価値があるのだ。(つづく)

集合住宅管理新聞「アメニティ」436号(2019年1月)掲載