12.commonの再活用
読者の皆さんは、『総合的団地環境整備事業(略称:総合団環)』という言葉をご存知だろうか。83年(昭58)頃からURの賃貸住宅で展開されたものである。高齢化の対処として敷地内の段差の解消、スロープ、階段手すりの設置等を行うことや、緑地面積の減少を押さえ、駐車場スペースを広げる。遊具等の整備、プレイロットの改修等と様々な整備を図るといったもので、時代のニーズに応えようとする屋外リニューアルの展開であった。こういった事業の展開を受け、住宅団地でも、その導入を全般的に或いは一部で行ったところがある。
津波のような大波に耐えてきた管理組合は多数に及ぶが、記者を離れて駐車場増設問題を振り返ったとき、ふと思い立ったプランが2点ほどあって、この場で紹介しておこうと思う。学会等で今後の管理組合の活動に向けた報告を耳にすることはあるが、自治会と組合の分離を推進すべきとした主張があったかと思うと、コミュニティを基調とした高齢化対策等を話しだす。様々な方向性があるのは結構だが、組合の話も自治会の話もゴチャゴチャで、どうもはっきりしてこない。
筆者の考える前提は、少子高齢化による急速な人口減現象が、郊外に広がった住宅団地にとってどのような課題を投げかけてくるかを踏まえ、その対応を模索したいのだが、既存の管理組合に対処できる手立ては何か。もちろん、組合と企業とのJVということは当然として、先ずその一つ目として浮上したのが『カーシェアリング』という考え方だ。もはや自動車は個人(区分所有者)が所有せず団体(管理組合あるいは企業)に帰属させ、区分所有者らは専ら、それを利用するという方向にあるのではないか。すると、既存の駐車場は、利用者が当然に減るわけだから、利用の仕方を変える必要が出てくる。駐車場=commonの再利用を考える時期が到来するのではなかろうかということ。
次に、『クラインガルデン』という考え方。これは、集団型・賃貸型の市民農園という意味らしいが(ブリタニカ国際大百科事典)、ドイツを発祥地として、200年以上の歴史を持つものとされる。国内でも若干見当たるようになってきた。郊外の住宅団地は、そもそも敷地が広く、建物の容積の使用も抑えられている。そこに40年ほど前、モータリゼーションの嵐が吹き荒れ、その影響のもと、もともと芝生というグリーンベルトと公園を駐車場にしたのだ。その駐車場を郊外型の農園と結びつけたとしても決して可笑しくはない。郊外の住宅団地産の野菜が朝市で出回るなんて、考えられないか。あってもおかしくないように想像される。
実はURは3年ほど前から、福岡県の宗像市(むなかた)にある日の里(ひのさと)団地(71~86年入居、1533戸)で、農業と住まいが一体となった日の里ファーム事業に取組んでおり、その活動を展開中だ。
筆者としては、全くといっていい程、農業については無知であるのだけれども、ベランダのプランターに実った大葉、三つ葉、セリ、そしてハーブの、ほんの僅かな収穫に心躍る。高齢化した建物と住民を農業が活性化してくれるのであれば有難い(つづく)。
集合住宅管理新聞「アメニティ」2019年4月号掲載