13 火災、地震保険の憂鬱

 団体信用生命保険の充実・普及に伴って、マンション購入後の悲劇は幾分遠ざかったように感じられるのではなかろうか。区分所有者を含む住み手側からすれば、多少の安心モードが備わった感がある。では、管理組合にとっての安心モードとは如何なものか。探ってみよう。

 管理組合における管理・運営の原資は、当然のことながら毎月(或いは隔月)徴収される組合費、修繕積立金等で、とても重要であることに疑いの余地はない。さらに、万一の事態に備えて、様々な保険がある。マンションと火災(地震を含む)保険の関係については、余り文献もないのだが、志田隆康日住協前副会長(故人)による「分譲集合住宅に関する危険管理と損害保険」紀伊国屋書店と、松村寛治氏による「マンションの事故と損害保険」文眞堂ぐらいだろうか。

 万一の際、火災保険は大変重要であることは周知の事実だ。マンションの火災、爆発、漏水、パーキング、機械・電気設備事故等に対応する。が問題は、専有部分に充てられた保険か共用部分に充てられている保険かで意味合いが異なってくる。

 例えば、マンションの1室を購入し、その専有部分から火災が発生すれば、復旧には、あらかじめ購入時に加入した火災保険により賄われるケースが普通だろう。が共用部分の復旧を行う場面、管理組合が復旧する場合は、共用部分の火災保険を付保しておく必要があるのだ。

 厄介なのは、火災保険が共用部分一括付保方式と個別付保方式を採用している点である。さらに混乱を助長したのは、マンション購入に当たって、金融機関を通してローンを設定すれば、いわば強制的に一括方式の火災保険に加入することになる。

 ところが、バブル経済崩壊後90年代になると、本格的な低金利時代を迎え、高金利時代のローンを解約し、低金利のローンに切り替えることが流行した。ローンを繰り上げ償還し低金利のものに代える。実に賢い選択となるわけだが、新たなローンの火災保険は、個別方式だ。

 万一に備え、当時の管理組合は、共用部分の付保を組合員に呼びかける。「火災保険は大丈夫ですか」。すると決まって「加入している」という回答。「貴方の火災保険は共用部分も付保されていますか」、「・・・・・」。こんな具合に。共用部分が抜け落ちてしまう危険に晒されたことになる。

 低金利もここまでくれば「超」が付くが、保険契約者が、管理組合あるいは管理会社とする積立マンション総合保険が登場してくると、共用部分を対象とした保険への加入と同時に、外壁等を含んだ大規模修繕工事と保険期間を算定し、修繕費の積立てを行ってさらに、満期返戻金でもって工事費を賄う。ある程度の金利が見込めれば素晴らしいが。

 URの前身であった住都公団の分譲は、公団資金を活用した割賦による購入の場合、公団を抵当権者とする特約火災保険を設定していた。これは、専有・共用部分を個別に付保する方式ということになるが、原則、全体で割賦金の返済が完了しないと積立マンション総合保険には移行できない。

 マンションでは修繕積立金、組合費のスムーズな徴収も困難な面があるし、火災保険+地震保険による危険への対処、いわゆる安全モードの確保も簡単ではなさそうだ。
(つづく)

安全モードの確保は肉眼では見えない

集合住宅管理新聞「アメニティ」2019年5月号掲載