14 先取特権は何処へ
管理費等の滞納問題は、実に古くて新しい問題だ。仕事がら判例集とは切っても切れない仲にあって目を通さざるを得ない。すると、ここ5、6年は、リゾートマンションを中心として、管理費等の滞納を前提とした法57条、58条、59条が俎上に上るケースがいきなり増えた。その結果、何を得られるかが問題なのだが、先回の保険問題に続いて管理組合の抱える、いわゆる財務問題に踏み込んでみよう。
まず、滞納を前提とした判例研究を行うと、必ずといっていいほど周りから指摘されるのは、「数千万で購入したマンションを、こんなわずかな金銭で、追い出されるのはおかしいのではないか」という声であり、なんと多いことだろう。筆者としては決まって、これは金銭の問題ではなく、いわゆる管理の放棄だから、57条を超えて59条「競売」が妥当だとする反論を行うのだが、効果の程は判らない。
そこで、滞納の発生した現場からの時系列を追ってみよう(図参照)。
Xマンションの302号室に住むAが2、3カ月前から管理費、駐車場料金等を滞納している。管理組合は、滞納者に対する督促の準備にかかる。督促を行っても反応がない場合、理事会はすぐさま、標準管理規約60条2項に則って、少額訴訟か一般訴訟の準備をする。訴訟に入って当然のことながら勝訴判決を得たところで、なおAの反応がない場合、36カ月目に迫ってくるともう待ったなしだ。滞納管理費等は、定期金債権であり、しかもその支分権(○年○月~○年○月まで)ということだから、消滅時効にかかってしまう。
悩んだ末に管理組合は、総会を開き、議決権、組合員の四分の三以上の多数を持って、法59条に基づく競売の請求を決議する。この決議を持って裁判所は、競売の可否を判断することになる。
さて、いざ競売請求実現の判断がなされたとして、管理組合はどのような行動をとることができるのか。法7条に基づく先取特権の行使によって、Aによる滞納管理費等の回収を目指すことになるだろう。先取特権は、優先弁済権が主な効力で、他の債権者に優先して弁済を受ける権利だ。しかも、一般の先取特権だから、この効力は備付きの動産にも及ぶ。
競売請求したところで、Aの持つ不動産価格が債権の見込み額を下回れば、無剰余に陥り競売が取り消されそうだが、法59条による競売は、換価のための競売とされ、剰余の見込みがなくても行える形式競売だ。ここで何となく、土俵上「がっぷり四つ」と見えるが。
ところがである、Aが302号室の購入に当たり、住宅ローン等を設定していれば、当然に金融機関の抵当権が設定されているのが普通だ。抵当権が購入時には設定されていると見ていい。抵当権と先取特権、どちらが先に成立しただろう。組合の先取特権は抵当権に押し出される格好になってしまう。先取特権とは、公平の原則及び社会政策的見地に立つ権利だったはずなのだが…。
結果、競売実現後、区分所有者Aの所有権は剥奪されたものの、Aに代わる新たな区分所有者に入れ代わったのみで、担保権も消滅。確か相撲を取った相手は、あのAだった筈なのに。(つづく)
明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員 竹田 智志
2019年6月号掲載