27.リビルディング・ロード②
読者の皆さんは、マンションにお住いの方もさぞ多いだろうから、色々なマンションのある事を既にご存知だろう。これまでに紹介して来た建替えにも実は色々ある。「法定建替え」とはいえ、とても個性的だと思われる建替え実例を見てみよう。
まずは、東京・町田市にある住宅団地。規模としては300戸(68年入居)と大団地という訳ではないが、当該地区全体はUR賃貸・分譲、公社等による一大団地群で、URだけでも5000戸に迫る。
建替えの構想が浮上してきたのは、バブル経済絶頂期から少し遅れてぐらいの時期と記憶している。一管理組合としては小規模団地ではあったけれども、夏祭り用の本格的な御神輿があったり、自慢の井戸もあって、何かと話題の豊富な住宅団地であった。
管理は、いわゆる自主管理を採用し、住民自らの手で運営され、大規模修繕工事や駐車場増設、敷地内アプローチ道路の改修等では研究熱心な対応が目を惹き、組合活動の充実ぶりが充分に窺えた。管理一般を取り仕切る事務局長は、筆者の前職と同じ。いつも会うたびに「貴方の聞きたいことはココだろう」とばかりに取材まで仕切られたものである。そんなある日、「相談があるので時間を作ってくれ」といった連絡が入った。
相談の内容はさて置き、それからというもの意外なときに意外なところで会う機会が増えたように思う。筆者が建替えに興味を持った動機等については既に触れた。彼等としては筆者に対し建替えについての状況把握を求めていたのかも知れない。報道等で明らかになっているものは話せるし、記事にしていないものは具体的に説明することは出来ない。忌憚の無いところで意見を問われても、「ただ厄介だ」としか言いようがなかった気がする。
なぜならば、ここは、①アクセス。JR・小田急「町田」駅から神奈中バスで15分から20分。駅前住宅という訳では無いということ。②余剰容積。先ほど触れたように大団地の一角にあるだけに容積の緩和は困難であること。③住宅規模。これは既に事例がクリアーとしている。宇田川住宅団地シンドロームからすると、三つの要件のうち、一つしかクリアーしていない。私の口をついて出て来たことは「大変難しいのでは」の一言。
でも、ここからが違った。持ち前の探究心と建替えへの情熱であろうか。顔を出すたびに質問を受け、様々な方面への働きかけを進めている状況の説明を受けた。何時間も。話を他の住宅団地で経験を積む大手ゼネコンに持ち込み、コンサルとしての協力を要請したことを始め、町田市、市議会への働きかけ、謙虚で懇切丁寧な住民への説明、組合役員が適材適所で組合の内と外にわかれ対応する。この間、色々な出来事も生じた。
これらの困難を乗り越えて、発想からほぼ20年後、これまで我が国では例を見ない建替えを実現させたのである。名付けて『自立・自主建替え』、町田市のこの住宅団地にしか出来ない手法は、次回紹介する(つづく)。
明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員 竹田 智志
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2020年7月号掲載)